この小説は五百いおが来り嫁した頃には、まだ渋江の家にあって、五百は数遍すへん読過したそうである。或時それを筑山左衛門ちくさんさえもんというものが借りて往った。筑山は下野国しもつけのくに足利あしかがの名主だということであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)