物怯ものおじ)” の例文
父や母や兄の仇、松平家を代表した一人いちにんに、怨恨うらみの鎌の刃とは、思えども、初めて接した貴人の背後、物怯ものおじしてブルブル戦慄せんりつして、手の出しようがないのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
キャラコさんは、物怯ものおじしたような顔で、広い座敷の真ん中にぽつねんと坐っている。靴下をへだてて藺草いぐさの座布団の冷たさがひやりと膚に迫る。それがまた、なんとなく落ち着かない思いをさせる。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)