朱雀綾小路すざくあやのこうじつじで、じみな紺の水干すいかん揉烏帽子もみえぼしをかけた、二十はたちばかりの、醜い、片目の侍が、平骨ひらぼねの扇を上げて、通りかかりの老婆を呼びとめた。——
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)