⦅ほんに、さういへば、この忌々しい定期市へ出かける時だつて、何だか牛の死骸でも背負はされたやうな重つ苦しい気持がしただて。
ニージュニ・ノヴゴロド市には、夏になると、昔から有名な定期市が立った。ペルシャの商人までそこに出て来て、何百万ルーブリという取引がある。
どれもこれも定期市にはつきものの賤しい小商人どもばかりぢや。祖父はちよつと立ちどまつて、しげしげと眺めたものぢや。
年一度、遠くペルシャやアルメニヤ、コーカサス辺から迄地方物産を集めて開かれる世界に有名な定期市で、(一九二八年迄数世紀間つづいた)謂わばニージニという町全体が生きていた。
それからこつち、誰ひとり怖気をふるつて近寄らねえもんで、ここに定期市が立たねえやうになつてから、かれこれもう十年にもなるべえ。