主人が眼をやっている方角へ、郎党の多賀能八郎たがのうはちろうも眼を放った。——だが、ただれた菜の花や、青い麦や、苗代田なわしろたの浅い水のほか、何も見当らないのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)