客は、襖があくとともに、なめらかな調子でこう言いながら、うやうやしく頭を下げた。これが、当時八犬伝に次いで世評の高い金瓶梅きんぺいばい版元はんもとを引き受けていた、和泉屋市兵衛いずみやいちべえという本屋である。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)