僅々きんきん)” の例文
今ここに吾々が僅々きんきん百部内外の古書、『日本紀』とか『古事記』とかの古い書物を持たぬとすると、千年以前の日本人の生活の中で
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかも、日頃忠実であって、深い信頼をけていた由蔵が、僅々きんきんの時間に、場所もあろうにこんな所に屍骸と化してよこたわっているとは!
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僅々きんきん二、三年の知己の恩にむくいるに、その後四十年の長い間、かつて変ることなかりしブラームスの好意はめられるべきものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
只圓翁から能楽の指導を受けた福岡地方の人々の中で、私の記憶に残っている現存者は僅々きんきん左の十数氏に過ぎない。(順序不同)
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これが私の初恋の最も楽しい思出なのだ。僅々きんきん八九ヶ月の間柄ではあったが、二人はもう決して離れることの出来ない関係になっていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
死体発見を去る僅々きんきん三十分以前の正二時には、被害者の呼吸を耳にしたと云う——実に奇怪きわまる事実を陳述したのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それまでは卑禄ひろくのお鷹匠たかしょうであったということ、だから他の三河以来の譜代とは違って、僅々きんきんこの十年来の一代のお旗本にすぎないということ
燃ゆるがごとき憤嫉ふんしつを胸にたたみつつわがぐうに帰りしそのより僅々きんきん五日を経て、千々岩ちぢわは突然参謀本部よりして第一師団の某連隊付きに移されつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
翁が一人や二人の工人を相手あいてに、僅々きんきん二年三年の片手間にも足らざる研究でこれを率直に発言させるのは、あまりにも罪がなさすぎるのではないか。
僅々きんきんたる残欠頁の拓本でさえこの通りの光がある。支那はエライ国だ、支那といえども外国は外国に違いないが、近ごろはやりの毛唐とは品が違う。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もちろんこの供養に関係ある僧侶だけは役目として見ることが出来ますけれども、二万五、六千の僧侶中それを見得る者は僅々きんきん二、三百人に過ぎない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しからば婦人が夫なる者に属してこれに仕うるに至りしは、比較的近代のことにして、僅々きんきん数千年間の現象なり。
婦人の天職 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
日本は開国以来僅々きんきん四十年にして清国を破り、更に十年にして露西亜ロシアを破り、ついに東洋の覇者たるに至った。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一、俳句における四季の題目は和歌より出でてさらにその区域を広くしたり。和歌にありては題目の数僅々きんきん一百にのぼらず。俳句にありては数百の多きに及べり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
明治二十二年の統計表に依れば全国において途上発病または饑餓にて死せしものは僅々きんきん千四百七十二人なり(消化器病にて死せしものは二十万五千余人なり)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
吾々が新橋の停車場を別れの場所、出発の場所として描写するのも、また僅々きんきん四、五年間の事であろう。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし一度出入りした以上どこかに入口が無ければならないのみならず僅々きんきん数分時間の間に行われた行為とすると、それは必ず内部の隔ての壁に仕掛けがあって
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
それでもなお、とにかく何とか返事をしろと言われるのなら、地球が百万年はおろか僅々きんきん数千年をでずして何かほかの天体と衝突して絶滅することは既定の事実であり
あの瓦斯ストーブから僅々きんきん二時間足らずのガスの漏洩で、果して死ぬものだろうか。新聞にはこの事には少しも触れていないけれども、私は第一の大きな疑問だと思うのだ。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それを僅々きんきん数時間あるいはむしろ数分間の調査の結果から、さもさももっともらしく一部始終の顛末てんまつを記述し関係人物の心理にまでも立ち入って描写しなければならないという
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さっきから僅々きんきん一二時間の間に如何なる現象が起ったのかを明瞭めいりょうに看取したのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、今朝からのいくさでは、まだ鉄砲しか物をいっていない。鉄砲の数となると、織田家の御所有は四千六、七百挺といわるるに、御当家には僅々きんきん四、五百挺の数しかないのだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作家の数から云う時も、作品の量から云う時も、またその質から云う時も、全盛時代とは云えません。ただし探偵創作物が、日本の読書界に現われてから、僅々きんきん数年にしかなりません。
大衆文芸問答 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
航海中より彼地かのちいたりて滞在たいざい僅々きんきん数箇月なるも、所見しょけん所聞しょぶん一としてあらたならざるはなし。
ただ、世の幽霊論者が僅々きんきん二、三の事実によりて、ただちにこれありとの断定を下さんとする傾向なきにあらざれば、かくのごとき論者に向かいて注意を請わんと欲するに過ぎず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その唯一ゆゐいちおほ株主たるジユウル・ルナアルが持株すら僅々きんきん四株に過ぎざりしとぞ。
人間衛生の事なり、活計の事なり、社会の交際、一人の行状、小は食物の調理法より大は外国の交際に至るまで千差万別、無限の事物を僅々きんきん数年間の課業をもって教うべきに非ず、学ぶべきに非ず。
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はこの方では英国に於ける第一人者といって差支さしつかえないほどの研究者である。その大金庫は、僅々きんきん十一分のうちに見事にぎいっと開かれた。
こんな風に書いていると長い様だが、舞台が明るくなってから、怪物の姿が木戸口の外に消えるまで、僅々きんきん二三十秒のあわただしい出来事であった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ですから、僅々きんきん数日の間に、すべての名所古蹟といったようなものを見尽してしまうと、彼の天性の迅足の髀肉ひにくが、いたずらに肥えるよりほかはせんすべがなき姿です。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僅々きんきん四箇月間の実験を行われましたのち、今からちょうど一箇月前の十月二十日に、正木先生が亡くなられますと同時に閉鎖される事になりましたものですが、しかも
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四階の一室では僅々きんきん数分間しか費やさなかったとみえて、艶子が家に帰り着いた時刻はふだんとほとんど違わなかったので、少しも係官の嫌疑をこさなかったのだった。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ただ、世の幽霊論者が僅々きんきん二、三の事実によりて、ただちにこれありとの断定を下さんとする傾向なきにあらざれば、かくのごとき論者に向かいて、注意を請わんと欲するに過ぎず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
右門が僅々きんきん一日の間で、胸中を読むこと鏡のごとく、おのれのほしいもののことごとくをそこにみやげとしながら携えかえったものでしたから、前後も忘れて薄雪に取りすがりました。
すなわち僅々きんきん一、二カ月前の、総理大臣としての広田氏から生まれ出た「浩々居」は著しき心境の動きによって(?)断然さきの「鬱々含晩翠」とは人間を異にし、書能を一変してしまった。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
かりに濁音を清音と同じにしたり、kとh、mとb、sとtなどを同一視したりいろいろして行くと、独立したものの数nは僅々きんきん五つか六つになってしまう。従って最後のPは著しく増大する。
すなわち僅々きんきん数十種の物体を十数通りに変形させたのが今日の紋である。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、「およそ文学に於て構造的美観を最も多量に持ち得るものは小説である」と云ふ谷崎氏の言には不服である。どう云ふ文芸も、——僅々きんきん十七字の発句ほつくさへ「構造的美観」を持たないことはない。
野蛮時代と異るところはない。祖先以来辛苦経営して蓄積したところの富を僅々きんきん四年の間に失ってしまった。二千万人の血を流し屍を積んだのである。しかして文明文化を誇るというのは何事ぞ。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
今この列車の停っている位置は甲南女学校を東北にへだたること僅々きんきん半丁程の地点であることは明かであり、従って、此処ここから目的の洋裁学院へは、平日ならば数分を出でずして到達出来る訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただただ驚くばかりさ。僅々きんきん二十時間あまりの間に、二人の死者と二人の昏倒者が出来てしまったんだ。どのみち、問題になるのは、文字盤が廻される以前さ。それまでに、犯人は昏倒させた津多子を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
僅々きんきん六週間で作曲したという、超人的な逸話をさえ残している。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
僅々きんきん数時間で目付めっけたのである。
半七雑感 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
如何なる要塞もトーチカもこの巨人国の戦車の前には全く無力である。どんな大都市も僅々きんきん数時間にして廃墟となり、無人の境と化し去る外はない。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その地点から、電車の窓までの最短距離は僅々きんきん五十メートルしかなかったのだった。小さなピストルでも、容易に偉力いりょくを発揮できるほどの近さだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくの如く、僅々きんきん二箇年の間に、三名の婦人と一人の青年とをあるいは殺し、或は発狂せしめて、その一家の血統を再び起つ能わざる迄に破滅せしむるが如き残虐を敢えてせるにも拘わらず
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ヤソ教家が世界の開闢かいびゃく僅々きんきん六千年前と認めたるを見て、これを打ち破りたる手際は称すべきも、なお宇宙の開発につきて、時間と空間との無限なるがごとく、世界の無限にして、世界の進化
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
よし又かう云ふ変化位を進歩と呼ぶことは出来ないにしろ、人間の文明は有史以来僅々きんきん数千年を閲したのに過ぎない。けれども地球の氷雪の下に人間の文明を葬るのは六百万年の後ださうである。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
独逸ドイツ語と、羅甸ラテン語の二種類で書かれておりますが、これを文献も何も無い宿屋の二階で僅々きんきん二三週間の間に書き上げられた正木先生の頭脳と、精力からして既に非凡以上と申さねばなりますまい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)