鼻頭はなさき)” の例文
さて、明くる朝、定めの家に六人集って見ると、六人が六人とも、鼻頭はなさきをそぎ取られていて、満足の顔の者は一人もないのであった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
れ!」とかれはそのてのひらを学生の鼻頭はなさき突出つきいだせり。学生はただちにパイレットのはこを投付けたり。かれはその一本を抽出ぬきいだして、燐枝マッチたもとさぐりつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は晩方になると近所の洗湯へ入って額や鼻頭はなさきを光らせて帰って来たが、夜は寄席よせ入りをしたり、公園の矢場へ入って、楊弓ようきゅうを引いたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
油汗を鼻頭はなさきににじませて、下唇したくちびるを喰締めながら、暫らくの間口惜くちおしそうに昇の馬鹿笑いをする顔を疾視にらんで黙然としていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
犬は主人の同類がやって来たのを見ると、嬉しがって、少し元気よく吠えて鼻頭はなさきなすりつけるようにした。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
壁の上よりは、ありとある弓を伏せての如く寄手の鼻頭はなさきに、かぎと曲るやじりを集める。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有合ふ仕込杖しこみつゑを抜放し、おのれかへらずば生けては還さじと、二尺あまりの白刃をあやふく突付けておびやかせしを、その鼻頭はなさきあしらひていよいよ動かざりける折柄をりから、来合せつる壮士三名の乱拳に囲れて門外に突放され
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
真実ほんとに……。」と鼻頭はなさきで笑って、「和泉屋の野郎、よけいなことばかりしゃべりやがって、彼奴あいつあっしが何の厄介になった。干渉されるわれはねえ。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
狸穴まみあなの狸じゃないが、一本松の幹の中へ入った気で居て、それに供えるという処から、入りしなにびんに詰めた白いのを、鼻頭はなさきで掻分けたつもりで居る。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻をやつままむ眼をやおさむとまたつくづくとうちまもりぬ。ふとその鼻頭はなさきをねらひて手をふれしにくうひねりて、うつくしき人はひなの如く顔のすじひとつゆるみもせざりき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鼻をやつままむ眼をやおさむとまたつくづくとうちまもりぬ。ふとその鼻頭はなさきをねらいて手をふれしにくうひねりて、うつくしき人はひなのごとく顔の筋ひとつゆるみもせざりき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……石頭いしあたまかどのある、大出額おほおでこで、くちさかさのへのに、饒舌おしやべりをムツと揉堪もみこたへ、横撫よこなでがくせ鼻頭はなさきをひこつかせて、こいつ、日暮里につぽりけむりより、何處どこかのうなぎぎさうな、團栗眼どんぐりまなこがキヨロリとひかつて
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と変な手つき、にゅうと女中の鼻頭はなさきへ突出して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)