雁皮紙がんぴし)” の例文
玉の外殻はうすい雁皮紙がんぴしで一枚一枚って、金属のようになるまで根仕事で固めたものである。中は、秘中の秘だった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここで出来る紙の第一等のものは、何といっても「雁皮紙がんぴし」であります。大体紙料には雁皮と楮と三椏みつまたとがありますが、雁皮を以て最上とします。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
封筒は行儀よく鋏で截られていて、なかに日本の雁皮紙がんぴしにしんかきでぴっしり書き埋めた厚い手紙が入っていた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして軽く麝香じゃこうの漂うなかで男の字のような健筆で、精巧な雁皮紙がんぴしの巻紙に、一気に、次のようにしたためた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ましてある面積を有する平面をそなうるものは必ず両面がある。雁皮紙がんぴしのごときうすい紙でも表裏はある。綿衣わたいれあわせはいうまでもなく、単衣ひとえさえも表裏がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お母様はその日からその五枚続きの絵を雁皮紙がんぴしに写し取って、合わせ紙に貼り付けたり切り抜いたりして
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ポチャポチャして可愛らしくて、若い男の心をひしとつかまずにはおかない——といううわさのお浜が、この物におびえて雁皮紙がんぴしのようにふるえている娘とは思いもよりません。
どんなふうに削ったのがいい出汁になるのかと申しますと、削ったかつおぶしがまるで雁皮紙がんぴしのごとく薄く、ガラスのように光沢あるものでないといけないのであります。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
澹山は一々それを薄い雁皮紙がんぴしに細かく書きとめて、着物の襟や帯のしんのなかに封じ込んだ。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かように柔かい薄い雁皮紙がんぴしを袋綴じにした小型の和装の帳面を作り、それへ毛筆の細字でしたためているのだが、さっきは私としてついぞないことに、書く方に興が乗り過ぎて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いい忘れましたが、栗太くりた上田上かみたなかみ桐生きりゅうでは、御用品として年々良質の「雁皮紙がんぴし」をきます。「雁皮紙」は和紙の主と讃えらるべきものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「うむ、来たか……」待ちわびていたらしい一八郎はすぐ小鳩の足の蝶結びを解いて、庭の巣箱へパッと放し、机の前に戻って、その雁皮紙がんぴししわをのばした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雁皮紙がんぴしを横にたたんで、そこへしんかきのほそくこまかい字をぴっしりつめて、何百通もの手紙をかいた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ポチヤポチヤして可愛らしくて、若い男の心をひしとつかまずにはかない——といふ噂のお濱が、この物におびえて雁皮紙がんぴしのやうに顫へて居る娘とは思ひもよりません。
どんなふうに削ったのがいいだしになるかというと、削ったかつおぶしがまるで雁皮紙がんぴしのごとく薄く、ガラスのように光沢のあるものでなければならない。こういうのでないと、よいだしが出ない。
だしの取り方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
女の児への土産ものとしては相応ふさわしいものであります。熱海地方はかつて「雁皮紙がんぴし」や「雁皮紙織がんぴしおり」で聞えましたが、もう純粋な品は見られなくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
細い刃金はがねが三本通してあって、その上を、雁皮紙がんぴし紙捻こよりで実に根気よく巻きしめた物なのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書いた古風な雁皮紙がんぴしとじたのと風俗史と二年の時の歴史の本と工芸資料をひっぱり出す。
有太郎が取り出したのは、灰のやうな物を雁皮紙がんぴしに包んだ、子供の拳固ほどの球でした。
原画は薄い雁皮紙がんぴしにかぎられていて、桜の版木に直接ノリ貼りされた画稿の上から、小さいのみのさきが、一線一線絵を彫り起してゆくのだった。毎日のことだし、たいへんな苦労に見えた。
恐ろしい焦躁と不安に、植幸の唇は雁皮紙がんぴしのようにふるえます。
足に結んである雁皮紙がんぴしを解いてパッと離すと、鳩は今宵のねぐらをさがすのか、ふたたび、木立の中へ隠れてしまう。それを見届けてから、一八郎は、細く折りこんである薄紙をていねいに開いて
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)