金簪きんかんざし)” の例文
道齋銘だうさいめいのを探し出して樂しみにして居りましたが、不思議なことに、母の金簪きんかんざし鑄込いこんだ、父の最後の傑作けつさくが見えません。
お春はくれないのしごきを解いて、堅くひざをくくり合せ、えりを開けて真珠の胸を露わしたが、やがて金簪きんかんざしを乳房の下に突き込んで、そのまま前に倒れ伏しました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうだ、帯上げもおなじ色だったので、大粒な、珊瑚珠さんごじゅ金簪きんかんざしが眼についたって。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
雪洞ぼんぼりえた拍子ひやうしに、晃乎きらり唯吉たゞきちとまつたのは、びんづらけてくさちた金簪きんかんざしで……しめやかなつゆなかに、くばかり、かすかほたるかげのこしたが、ぼう/\と吹亂ふきみだれる可厭いやかぜ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おのがかしらにさしたる金簪きんかんざしまで引抜きぬくみを添えて売ってのみ、我身のまわり調度にしてたまわりし大事の/\女房に満足させて、昔のきをたのしみに語りたさのためなりしに、情無なさけなくも死なれては
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女房おあやが死んだ後は、その唯一の形見の金簪きんかんざし鑄込いこんで大きい鈴を作り、自分の仕事部屋に掛けて、朝夕清澄な音を樂しんで居りましたが、或夜賊が入つて、芳村道齋を斬つた上
女房おあやが死んだ後は、その唯一の形見の金簪きんかんざし鋳込いこんで大きい鈴を作り、自分の仕事部屋に掛けて、朝夕清澄なを楽しんでおりましたが、ある夜賊が入って、芳村道斎を斬った上