遠方をちかた)” の例文
遠方をちかたは雨雲に閉されて能くも見え分かず、最近まぢかに立つて居るかしはの高さ三丈ばかりなるが、其太い葉を雨に打たれ風に揺られて、けうときを立てゝ居る。道を通る者は一人もない。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
どろだらけなさゝがぴた/\とあらはれて、そこえなくなり、水草みづくさかくれるにしたがうて、ふね浮上うきあがると、堤防ていばう遠方をちかたにすく/\つてしろけむり此處彼處こゝかしこ富家ふか煙突えんとつひくくなつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夢ごこちなる耳に遠方をちかたの虫の声のきたりしこそ云ふよしもなきなまめかしさを感ぜしめさふらふ。日本食のかずかずのおん料理頂きしよりもなほ主人夫妻の君の私をもてなし給ふ厚さのうれしくさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
うつらうつらわが夢むらく遠方をちかたの水晶山に散るさくら花
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
屋根の雪霞みて暗き遠方をちかたはややけぶりだてり風か吹きいでし
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
遠方をちかたに星の流れし道と見し川の水際みぎはに出でにけるかな
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
我が玄耳蘭を愛することをしぬ遠方をちかたびとを思ひ余りて
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
灰色に銀糸まじれる遠方をちかたの夕立のごとき思ひ出の家
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふと遠方をちかたなれてしひとがたち
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
何とはなしにおのづから耳を澄せば遠方をちかた
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
遠方をちかたは淵を目がけて滝となる!
群立雲むらたつくも遠方をちかた
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
遠方をちかた
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
遠方をちかた
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
春の海いま遠方をちかたの波かげに睦語りする鰐鮫思ふ
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
蒼空あをぞら遠方をちかた伽藍がらんはとんだ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるは、靄ふる遠方をちかたの窓の硝子がらす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
遠方をちかたに居てかの山を見む。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
遠方をちかた樹立こだちに、あはれ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
遠方をちかたくもれる都市とし屋根やねの色
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)