みち)” の例文
往来どめ提灯ちょうちんはもう消したが、一筋、両側の家の戸をした、さみしい町の真中まんなかに、六道の辻のみちしるべに、鬼が植えた鉄棒かなぼうのごとくしるしの残った、縁日果てた番町どおり
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彩画をほどこした銀泥ぎんでいの襖、調度の物の絢爛けんらんさ、いま大奥の一間にささやき合っているのは、家綱の寵妾ちょうしょうみちの方と、一人は久しく見えなかった姉の光子てるこの御方だった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは千葉の者であるが、馬琴ばきんの八犬伝でおなじみの里見の家は、義実よしざね、義なり、義みち実尭さねたか、義とよ、義たか、義ひろ、義より、義やすの九代を伝えて、十代目の忠義ただよしでほろびたのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年ゆたかなれども七六あしたくれに一わんかゆにはらをみたしめ、さる人はもとより朋友ともがきとむらふ事もなく、かへりて兄弟はらから一属やからにも七七みちられ、まじはりを絶たれて、其のうらみをうつたふる方さへなく
彼方かなた、道なきみちの奧
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
その日、増上寺参詣さんけいを名として、大奥を出た将軍家の愛妾おみちの方の駕は、山内の休所で供の者を減らし、ほんのお忍び同様な二、三人で愛宕あたごの裏坂へ向って行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東雲しののめさわやかに、送つて来て別れる時、つと高くみちしるべの松明たいまつを挙げて、前途ゆくてを示して云つた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もと将軍家のお船見屋敷であり、今は家綱の愛妾おみちの方の姉にあたる光子てるこの御方の住居が、一夜に焼失してしまったことは、江戸でも近来の椿事ちんじと誰もが驚いたらしい。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)