農夫ひやくしやう)” の例文
暫くすると、激しい靴音がして独逸兵がを跳ね飛ばすやうな勢で入つて来た。農夫ひやくしやうは両手の掌面てのひらめてゐた顔を怠儀さうにあげた。
薪とりにいでし四十九日目の待夜たいや也とていとなみたる仏㕝ぶつじにはかにめでたき酒宴さかもりとなりしと仔細こまかかたりしは、九右エ門といひし小間居こまゐ農夫ひやくしやう也き。
吉野は、濡れに濡れて呼吸いきも絶えたらしい新坊の体を、無造作に抱擁だきかかへて川原に引返した。其処へ、騒ぎを聞いて通行とほりすがり農夫ひやくしやうが一人、提灯を携げて下りて来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こぼした事があつた。そして相手の農夫ひやくしやうが値上げの張本人であるかのやうにじつとその顔を見つめた。顔は焼栗のやうに日にけてゐた。
同じ話がまた、前夜其場に行合せた農夫ひやくしやうが、午頃ひるごろ何かの用で小川家の台所に来た時、やや詳しく家中の耳に伝へられた。成年者としより達は心から吉野の義気に感じた様に、それに就いて語つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「でも、おめえ様、小麦が高くなつたのは、小麦自身が高くなつた訳ぢやござりましねえだよ。」農夫ひやくしやうは言ひ訳がましく口を切つた。
其家そこにも、此家ここにも、怖し気な面構つらがまへをした農夫ひやくしやうや、アイヌ系統によくある、鼻の低い、眼の濁つた、青脹あをぶくれた女などが門口に出て、落着の無い不格好な腰付をして、往還の上下かみしもを眺めてゐるが
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
折角柔かい乳房を持ちながら、男のやうな硬い考へ方をする婦人をんながある。正直な農夫ひやくしやうめ、そんなのを見たら、どんなに言ふだらう。
『そンだ、そのはうが好うがンす。』と農夫ひやくしやうも口を添へる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ある時この婦人がマサチウセツツの某市なにがしまちへ旅をした事があつた。途中で道を迷つてひどく当惑してゐるところへ、農夫ひやくしやうが一人通りかゝつた。
「あゝ、おつ魂消たまげた。」農夫ひやくしやうは眼をこすり/\言つた。「おらはあ、何にも知んねえだよ。おめえ様のやうな女子あまつこみたいな男初めて見ただからの。」
ブライアン氏は農夫ひやくしやう律義りちぎさうな言葉を聞いて、にこ/\しい/\手を出した。農夫ひやくしやうは嬉しさうにそれを握つた。
流石に農夫ひやくしやうの考へだけあつて一寸面白い。だが、やすい玉蜀黍も一度に七本も食つちや馬が怒るかも知れない。
ブライアン氏はそこで一ぢやうの演説をした。そしてすつかりい気持になつて、自分の椅子へ着くと、聴衆きゝてのなかから農夫ひやくしやうらしい人のささうな顔をした男が一人出て来た。