象徴シンボル)” の例文
その証拠が、面皰にきび云々の夢で、それが充たされない性慾に対する願望だと云うのは、面皰を潰した痕が女性性器の象徴シンボルだからだよ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
宮本武蔵の疑義されやすい点は、そして時には書評的な誤解をうけるのも、剣に象徴シンボルされた人間や、封建の種々相などにあるのであろう。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもイエスはただちに一つ重大な実物教訓をこの樹に見いだし給うたのです。無花果はイスラエル国民の象徴シンボルとしてしばしば用いられました。
もう一人は天下堂の前にいるポイントマンであった。最後の一人いちにんは広場の真中に青と赤の旗を神聖な象徴シンボルのごとく振り分ける分別盛ふんべつざかりの中年者ちゅうねんものであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、世間では、いやあれは象徴シンボルだの諷刺アレゴリイだのと、くだらないことをいうのさ! そして犯罪を未然に察したとか、犯人の目星をつけたとか言いふらすのだ。
香水の象徴シンボルみたいな細君が出て来て、おや、いらっしゃいまし、又山ですか、今度はどちらへなんて、仏蘭西フランス寄りの生れだけに、しきりに、御世辞を並べている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
薄化粧に、一張羅いっちょうららしい銘仙めいせんを着て、赤い帯も、黒い髪も、水へも火へも飛込みそうな、純情無垢むく象徴シンボルに見えて、平次の目には危なっかしくてならないのでした。
極楽鳥の翼で飾つた帽子が、その漆のやうに匂ふ黒髪を掩うてゐた。大粒の真珠の頸飾りが、彼女自身の象徴シンボルのやうに、その白い滑らかな豊かな胸に、垂れ下つてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これは自分が周囲の者からその集団の象徴シンボル見做みなされていることを感じている棟梁の歌である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
細民の汗は必ずしも象徴シンボルにはならない。フィリップは、いつでも、うるしを塗ったように汗をかいている。猟に行って、われわれ二人のうち、見るところ、たしかに、彼のほうがはえに好かれるようである。
鹿鳴館の名は西欧文化の象徴シンボルとして歌われたもんだ。
その明るみは一つの象徴シンボルであった。
女史がミス・タムスンに触れているのは一つの象徴シンボルであって、目に見えぬところでヘレンのたましいは常にイエス・キリストに触れていたに違いない。
かわらの一枚一枚が金箔きんぱくにつつまれている大坂城の宇宙の大屋根は、時の力と、時の富と、時の志向しこうを、象徴シンボルしている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「するとこれが、踏みにじった婚礼の象徴シンボルなんですね。」法水はポケットから泥塗れにつぶれた白薔薇しろばらを取り出して
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
代助はかつて、これを敗亡の発展と名づけた。そうして、これを目下の日本を代表する最好の象徴シンボルとした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
極楽鳥の翼で飾った帽子が、その漆のようににおう黒髪をおおうていた。大粒の真珠の頸飾りが、彼女自身の象徴シンボルのように、その白い滑らかな豊かな胸に、垂れ下っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あの、長老が足にお辞儀をしたのはいったい何事でしょう、何かの象徴シンボルでしょうかなあ?」
この象徴シンボルには、どうも理窟なしに、かつての極端な指導者の軍国利用や虚構のかげがさす。そんな先入主と混同されては、迷惑だし、小説にも失望されよう。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奇蹟は神の真理の象徴シンボル的説明である。問題は現象にあるのではなく、意味にあるのだ。真理を学べばよいのだ。
代助はかつて、是を敗亡の発展はつてんづけた。さうして、之を目下の日本を代表する最好の象徴シンボルとした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
所が、そう云う不可解現象の象徴シンボルとでも云いたいものがある。顔面にその形体化したものが現われているよ。どうだろう、この表情は聖画等の殉教者特有のものではないだろうかね。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これはつまり、僕が十字架の苦しみを背負うという象徴シンボルだね、へ、へ! まるで僕が今までに、苦しみ方が足りなかったとでもいうようだね! 糸杉サイプレスのは、つまり民間に行なわれるものなんだね。
そこには一種のアイロニーが顫動せんどうしていた。縕袍どてらは何かの象徴シンボルであるらしく受け取れた。多少気味の悪くなった津田は、お延に背中を向けたままで、兵児帯へこおびの先をこま結びに結んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紺絣に、小倉の袴の新しいのをつけて、清掃された校庭で「今日の佳き日——」を歌ふ日は、ふしぎに毎年よい天氣で、菊の花と日章旗で象徴シンボルされた日本であつた。故夏目漱石氏の句かと思ふが
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
どこかで鳴くこおろぎさえ、ならんでいる人の耳に肌寒はださむ象徴シンボルのごとく響いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし暴風雨がこれから荒れようとする途中で、急にその進行をめられた時の沈黙は、けっして平和の象徴シンボルではなかった。不自然におさえつけられた無言の瞬間にはむしろ物凄ものすごい或物が潜んでいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)