謳歌おうか)” の例文
もう一つの理由は、一般民に、とにかく徳川政策を謳歌おうかさせるためには、土木の工を各地に起して、下層民へ金をこぼしてやるに限る。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口に新時代の女性を謳歌おうかしながら、趣味としては、義太夫節などにある、身を売って夫を養う妻を理想として矛盾を感じない男もあります。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それゆえ先生は「生」を謳歌おうかしなかった。生きている事はいたし方のない事実である。望ましいことでも望むべき事でもない。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼れは向象賢よりもヨリ大なる時勢の解釈者でありました。彼れは時勢の謳歌おうか者ではなくて、むしろ時勢の作為者でありました。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
さてここに、私もちょうど泰平たいへいの世を謳歌おうかするようなのんきなむだばなしを書いたが、それは口からでまかせにしゃべりちらしたものである。
現代経済組織の都合よき一面をのみ観察することによりてこれを謳歌おうかし、その組織の下における利己心の活動をば最も自由に放置することが
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
成金だとか、何とかよく新聞などに、彼等の豪奢ごうしゃな生活を、謳歌おうかしているようですが、金でかちうる彼等の生活は、んなに単純で平凡でしょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼が謳歌おうかした後年の日本資本主義のための最ものろわしきいっさいのものを夢にも知らなかっただろうところの、タイクン政府通訳官福沢諭吉氏は
咸臨丸その他 (新字新仮名) / 服部之総(著)
この事件に関する私の活躍は、表面上大成功として都下の新聞に謳歌おうかされているのであるが、実は尻切れトンボ式の大失敗に終っているのである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そんな事を、弁公は、憎まれ口のようでいて、そのくせ心から、市井生活を謳歌おうかするようにいいいいするのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
今の時代の人々は彼らを謳歌おうかしている。そしてかれは今の時代の精神に触れないばかりに、今の時代をののしるばかりにこのありさまに落ちてしまった。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
動物のように戯れ、動物のように子供を生むだけの事ならば人生は謳歌おうかすべきものとは自分には思われない。
映画雑感(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だが無学を強いられている大衆のために、準備せられた不可思議な摂理を謳歌おうかしないわけにはゆかぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
陰謀政治家が崇拝すうはいせられる時期もあれば平凡な常識円満な事務家の手腕が謳歌おうかせられる時期もある。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
人間は徹頭徹尾てっとうてつび利己的の動物であるといい、強いものは弱いものをおとし踏みにじるのが人生である、阿修羅あしゅらのようになってそうしたことのできるものは謳歌おうかされ
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
天下をして寛政大改革に謳歌おうかせしめざりしならば、徳川幕府の命数は、既に眉端びたんに迫りきたりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「春花のにほえさかえて、秋の葉のにほひに照れる」(巻十九・四二一一)などと云って、美麗な人を形容したのがあるが、此歌は帝都の盛大を謳歌おうかしたのであるから
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
哲学がそれを謳歌おうかし、宗教がそれを賛美し、人間のことはそれで遺憾いかんのないように説いている。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「粗略ではござるがまずおくつろぎください」蓑賀殿は玉村使節を上座に請じて云った、「当市は治安経済民生すべて申し分がなく、民は鼓腹して泰平を謳歌おうかしております。 ...
理想的なガスコン人ども——スキュデリーやラ・カルプルネード——のふさわしい後裔こうえいであり、真の英雄主義の敵たる、あり得べからざる虚偽の英雄主義の謳歌おうか者であった……。
謳歌おうかしてくれるのです! なよたけ!……あの美しい小鳥の唄を聞いてごらんなさい!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
青春の喜びをただもう謳歌おうかしているような、明るい大胆な輝いた声に、外国人はほおに石でも投げつけられたような表情を見せたが、そうした顔の前に、颯爽さっそうと腕を組んだ若い男女が
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
私は今まで幾度か他に対する自分の勝利を謳歌おうかしました。しかし勝ち誇るその瞬間の心にはもう罅が入っています。私は秋風の趣をたずねてまたこういうことに想到したのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
大地と自然とを謳歌おうかする歌になっているものですから、お松は、この島が豊かな土地であり、船長はじめ検分の一行も極めて無事満足に探検を進めて、希望に満ちているということを
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
世は名門を謳歌おうかする、世は富豪を謳歌する、世は博士、学士までをも謳歌する。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、この、物理の懊悩おうのうと、天体の憂患と、犬猫いぬねこ狼狽ろうばいと、人知の粉砕のすぐあとに来たものは、ふたたび天地の整頓せいとんであり、その謳歌おうかであり、ひまわりサン・フラワーどもの太陽への合唱隊だった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
劍舞けんぶするのもある。なか一團いちだん七八にん水兵等すいへいらは、なみ突出つきだされたるいそうへむつましくをなして、はるかに故國こゝくてんのぞみつゝ、ふしおもしろくきみ千代八千代ちよやちよさかえ謳歌おうかしてるのであつた。
外国人同志の間にはうわさもとりどりで、あの「えいじゃないか」は何を謳歌おうかする声だろうと言い出すものがあったが、だれもそれに答えうるものがない。中には二階からガラス窓の一つをあけて
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「リベルタンってやつがあって、これがまあ自由思想を謳歌おうかしてずいぶんあばれ廻ったものです。十七世紀と言いますから、いまから三百年ほど前の事ですがね。」と、まゆをはね上げてもったいぶる。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
勅使の一行が通ってきた北国の駅路うまやじには、綸旨りんし下向げこうのうわさが、当然、人々の耳目からひろがった。そして、念仏門のさかえが謳歌おうかされた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燁子の事件はあくまで慨嘆すべきものか、あるいはかえって謳歌おうかすべきものか、吾人ごじんはこれを報道した責任として、ここにいささか批評を試みたい。(略)
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
して見ると、半死の琉球王国が破壊されて、琉球民族が蘇生したのは、むしろ喜ぶべきことである。我々はこの点に於て廃藩置県を歓迎し、明治政府を謳歌おうかする。
個人主義者はかくのごとく観ずることによりて現代の経済組織を謳歌おうかするのであるが、げに今の世の中は、金ある者にとりてはまことに重宝しごくの世の中である。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
だが手工を殺傷する機械を謳歌おうかするのは一層無智である。手工藝には人間の正しい幸福を保証する不変な力が宿る。なぜなら手工藝には自然の加護があるからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
武士の末流、浮浪ふろう、その他少数の智勇弁力の徒が、日に徳川の天下を顛覆てんぷくせんとそのすきうかがう時に際して、国民の多数は、酔生夢死すいせいむし、封建政治に謳歌おうかしたるもまたべならずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
侵略雄図の謳歌おうかなどは更に無く、ただ悲愴美へよせるリリスムへの惑溺わくできのみで、ジンギスカンの如き大侵略家をとらえてすら、彼の関心はもっぱら蒙古の風土によせる感傷であり
読者は此点をげて此種の作物を謳歌おうかし、余もまた此点に於て此種の作物に敬服する。所で此種の作物に対する賞讃の辞を聞くと第一義とか、意味が深いとか、痛切とか、深刻とか云って居る。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう言ってP君が野蛮主義を謳歌おうかするのである。(大正十年六月、渋柿)
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「リベルタンってやつがあって、これがまあ自由思想を謳歌おうかしてずいぶんあばれ廻ったものです。十七世紀と言いますから、いまから三百年ほど前の事ですがね。」と、まゆをはね上げてもったいぶる。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
長久手ながくての大勝利が、つよく伝えられていたので、帰還した将士も、迎える領民も、みな徳川軍の完勝を謳歌おうかして、誇りあった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本の兵隊は耐乏の兵隊で、便利の機械は渇望されず、肉体の酷使耐乏が謳歌おうかせられて、兵器は発達せず、根柢的に作戦の基礎が欠けてしまって、今日の無残極まる大敗北となっている。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうして美しい作が多量であるため、平凡となる時、その時代は最も高い標準に達していることを告げるであろう。私は多量生産と粗製濫造らんぞうとが一致する近代を謳歌おうかしているのではない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すなわち現時の経済組織を謳歌おうかし、その組織の下における利己心の妙用を嘆美し、自由放任ないし個人主義をもって政治の原則とすということが、いわゆる英国正統学派の宗旨とするところである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
折角、こよいは年に一度の祭、和楽を謳歌おうかしているところ。微罪はとがめるな、罪人は作るな、祭中は無礼講という高札もある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば、江戸趣味に於ては軽蔑せられる成金趣味が大阪に於てはそれが人の子の当然なる発露として謳歌おうかせられる類いであって、人間の気質の俗悪の面が甚だ素直に許容せられている。
四民がみな王道楽土を謳歌おうかしての泰平ではなくて、疲れと昏迷から来たところの無風状態——無力状態なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本の兵隊は耐乏の兵隊で、便利の機械は渇望されず、肉体の酷使耐乏が謳歌おうかせられて、兵器は発達せず、根柢的に作戦の基礎が欠けてしまって、今日の無残極まる大敗北となっている。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
だが、そこの土に、永久的な文化の建設や、実利と希望をもたらされると、一も二もなく現実を謳歌おうかする。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも、ほがらかな秋を謳歌おうかする人間か、きいていても筋肉きんにくがピクピクしてきそうな口笛だ。健康けんこう両足りょうあしで、軽快けいかい歩調ほちょうで、やってくるのがわかるような口笛だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、城主に人を得て、安業楽土あんぎょうらくどの国とは、おれたちのことなれと、謳歌おうかせぬ領民はなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)