読耽よみふけ)” の例文
芥川龍之介あくたがわりゅうのすけ谷崎潤一郎たにざきじゅんいちろう菊池寛きくちかん倉田百三くらたひゃくぞう賀川豊彦かがわとよひこの新らしい作を読耽よみふけるものもやはり『金色夜叉』を反覆愛読しておる。
かつてはポリネシアの大合同を夢見た彼も、今は自国の衰亡を目前に、静かに諦観ていかんして、ハアバアト・スペンサーでも読耽よみふけっているのであろう。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
良吉の帰っている間入学試験の準備をおこたっていたので、もはや小説など読耽よみふけってはいられなかった。上京までの日数を数えると心があわただしかった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
春日は△△中学校と門標のある中へサッサと這入り、名刺を出して校長に面会を求め、少時しばらく何か話していたがやがて生徒名簿を借受けて、拡げ出した、或一頁を読耽よみふけっているから
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
二枚書けばたちまち筆渋りて癇癪かんしゃくばかり起り申候間まづ/\当分は養痾ようあに事寄せ何も書かぬ覚悟にて唯折節おりふし若き頃読耽よみふけりたる書冊しょさつらちもなく読返してわずか無聊ぶりょうを慰めをり候次第に御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
食事時間を大分過ぎていたので、わずかに数える程の客があちこちの席にいているばかりであった。卓子テーブルを三かわおいた彼の筋向うには、前額の禿上った男がしきりに新聞紙を読耽よみふけっていた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彼は、まるで、それが他の誰か(最も好きな作家)の作品であるかのように、そして、其の作品のプロットも帰結も何も知らない一人の読者として、心から楽しく読耽よみふけるのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)