蚊燻かいぶ)” の例文
初夏でも夜は山中の冷え、炉には蚊燻かいぶしやら燈火ともしび代りやらに、松ヶ根の脂肪あぶらの肥えた処を細かに割って、少しずつ燃してあった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「どれ、あのとほくのがゝ、わかるもんか何處どこだか」勘次かんじえたところだけがつくりとつた蚊燻かいぶしの青草あをくさそゝぎながら氣乘きのりのしないやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「へツ、情けねえことになりやがつたな、蚊燻かいぶしでもおごつて下さいよ。今年はまた陽氣のせゐか、自棄に蚊が多い」
早速電燈をともして見ると王侯貴人と思ったのは㊇の豚の蚊燻かいぶしでした。朝まで続くように大形のを使っています。
社長秘書 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「秋まで生き残されている蚊を哀蚊と言うのじゃ。蚊燻かいぶしはかぬもの。不憫ふびんの故にな」
(新字新仮名) / 太宰治(著)
蚊の多いに蚊帳かやもなし、蚊燻かいぶしもなし、暗くって薩張さっぱり分りません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小児心こどもごころにも朝から気になって、蚊帳かやの中でも髣髴ほうふつ蚊燻かいぶしの煙が来るから、続けてその翌晩も聞きに行って、きたない弟子が古浴衣ふるゆかた膝切ひざぎりな奴を、胸のところでだらりとした拳固げんこ矢蔵やぞう、片手をぬい、と出し
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
踊子をどりこさそ太鼓たいこおとねてした。勘次かんじ蚊燻かいぶしの支度したくもしないでこん單衣ひとへへぐる/\と無造作むざうさに三尺帶じやくおびいて、雨戸あまどをがら/\とはじめた。さうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)