薪屋まきや)” の例文
文「御重役でもなんでも、今はずう/″\しいのなんて、米屋でも薪屋まきやでも、魚屋でも何でも、物を持ってく気づかいありません」
取する者も無なりしにぞ長庵今は朝暮あさゆふけぶり立兼たちかねるより所々しよ/\方々はう/″\手の屆く丈かり盡して返すことをせざれば酒屋米屋薪屋まきやを始め何商賣なにしやうばい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
炭団たどんを干した薪屋まきやの露地で、下駄の歯入れがコツコツとるのを見ながら、二三人共同栓にあつまった、かみさん一人、これを聞いて
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妹といっしょに家を持っている事はこの時始めて知った。兄妹きょうだいして薪屋まきやの二階を一間借りて、妹は毎日刺繍ぬいとり稽古けいこかよっているのだそうである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから薪屋まきや金右衛門きんゑもんさんの家までは、もう半里程だつたやうに思ひます。畑の間の路が少し広がつたと思ひますと、もう其処そこが私の行く家の座敷の庭だつたのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さて坂を下りつくすと両側に居並ぶ駄菓子屋荒物屋煙草屋たばこや八百屋やおや薪屋まきやなぞいずれも見すぼらしい小売店こうりみせの間に米屋と醤油屋だけは、柱の太い昔風の家構いえがまえが何となく憎々しく見え
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あとに残されたのは町内の薪屋まきやの亭主五兵衛と小間物屋の亭主伊助で、この二人は信者のうちの有力者と見なされ、いわゆる講親こうおやとか先達せんだつとかいう格で万事の胆煎きもいりをしていたのである。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
米屋、炭屋、薪屋まきやなども通いを持って来た。父親は隣近所の組合を一軒一軒回って歩いた。清三は午後から二階の六畳にはらばいになって、東京や行田や熊谷の友人たちに転居の端書はがきを書いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
車庫の角には右に薪屋まきや左側に材木屋があった。群集はその前まで来ると、町をはさんで警察と相対した。警察の前には白服の警官が整列していた。電灯もないやみをすかして群集はざわめいた。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
私はその中をひとり狂気のようになって歩いていた。そして山吹町の中ほどにある、とある薪屋まきやのところまでもどって来ると、何というわけもなくはじめてそばにある物象ものかたちが眼につくようになって来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
炭屋、薪屋まきや、石炭揚場の間から蹴出しを飜して顕われたんでは、黒雲の中にひらめく風情さ。羅生門に髣髴ほうふつだよ。……その竹如意はどうだい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うちの人達は無事ですか、どこへ行きましたかと聞いたら、薪屋まきや御上おかみさんが、昨晩の十二時頃にがけくずれましたが、幸いにどなたも御怪我おけがはございません。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私を可哀想かわいそうだとお思いなすったら、このお邸のおさんどん、いくや、いくや、とおっしゃってね、豆腐屋、薪屋まきやの方角をお教えなすって下さいまし。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらいはもうみんな済んだのかい」と宗助は立ちながら御米に聞いた。御米はまだ薪屋まきやが一軒残っていると答えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はらひはもうみんなんだのかい」と宗助そうすけちながら御米およねいた。御米およねはまだ薪屋まきやが一けんのこつてゐるとこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)