葭簾よしず)” の例文
ガラツ八は少し這ひ加減に葭簾よしずの下の方を押すと、其處だけは、くひと縁が切れて、手に從つて、かなり大きい穴が開いて行くのです。
切米きりまい、お扶持米ふちまい御役料おやくれうの手形書替へをする。札差の前身は、その役所近くに食物や、お茶を賣つてゐた葭簾よしずばりの茶店だつたのだ。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
異人館の丘の崖端がけはしから川を見下ろすと、昼間見る川はにぎやかだつた。河原の砂利じゃりに低く葭簾よしずの屋根を並べて、遊び茶屋が出来てゐた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
誰か、乗っているにちがいなかったが、和田は、町人か、百姓なら、話をして、借りて行こうと、疲れた腰を上げて、葭簾よしずの外へ、一歩出た。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
僕の目を覚ました時にはもう軒先のきさき葭簾よしず日除ひよけは薄日の光をかしていた。僕は洗面器を持って庭へ下り、裏の井戸いどばたへ顔を洗いに行った。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほどなく、鎮守の社へいって見ると、歌舞伎の柱を押立てて緞帳どんちょうをつり、まわりへむしろ葭簾よしずを張りめぐらしてある。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに高い葭簾よしずで家をかこうということが、一層屋内を暗くする。私は娘達を残して置いて、ひとりで町へ出てみた。チラチラ雪の中で橙火あかりく頃だった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よし爺さんに初めて会ったのは「東」の海水小屋であった。冬のことで、海水小屋は取り払われ、半分朽ちた葭簾よしずの屋根と、板を打ちつけた腰掛が一部だけ残っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正午近くに、いつも、向うの肴屋の河岸がかえって来て、立てた葭簾よしずのかげに大ぜいお客のあつまるとき、目かくしをした学校の二階からゆたかなオルガンの音が聞えて来ました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
地面には夜露のしとりがまだ乾かぬくらいで、葭簾よしずをかけた花屋の車からは、濃い花の色が鮮かに目に映った。都会人のきりりとした顔や、どうかすると耳に入る女の声も胸が透くようであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あまり虫が多いので、窓に葭簾よしずの戸をはめさせた。
言葉言葉言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
土手の兩側は一段低い町家で、土手の上には、葭簾よしず張りや粗末な板屋根の、遊客目當ての茶屋が斷續し乍ら續いて居ります。
もっとも遊園とは言うものの、庭の出来ている次第にはあらず。只大きい蓮池のまわりに葭簾よしず張りの掛茶屋のあるだけなり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
池は葭簾よしずおおったのもあり、露出ろしゅつしたのもあった。たくましい水音を立てて、崖とは反対の道路の石垣いしがきの下を大溝おおどぶが流れている。これは市中の汚水おすいを集めてにごっている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芳爺よしじいさんに初めて会ったのは「東」の海水小屋であった。冬のことで、海水小屋は取り払われ、半分朽ちた葭簾よしずの屋根と、板を打ちつけた腰掛が一部だけ残っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時は夏五月、日盛りは過ぎたが、葭簾よしずの蔭で、地はそんなに焼けてもいなかったのに打水うちみずが充分にみて、お山から吹き下ろす神風がふところに入る時は春先とも思うほどの心地ここちがします。
土手の両側は一段低い町家で、土手の上には、葭簾よしず張りや粗末な板屋根の、遊客目当ての茶屋が断続し乍ら続いて居ります。
夕方になると六十五六になる爺さんが車屋台をいて来て、葭簾よしずで三方を囲い、腰掛けを二つ並べて商売を始める。夜が明けると片づけて、車屋台を曳いて帰ってゆく。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕等のいるのは何もない庭へ葭簾よしず日除ひよけを差しかけた六畳二間ふたまの離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺うみべに多い弘法麦こうぼうむぎだけはまばらに砂の上にを垂れていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けやきの並木の間に葭簾よしずで囲った茶店一軒。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
葭簾よしずの陰で、顔は半分見えず、あの燃える瞳も隠れて居りますが、気魄の激しさを、平次は近々と感ずるのでした。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ひっそりと暗く葭簾よしずが巻いてある、もう肌さむいくらいな川風に、柳の枯葉はあわれなほどもろく舞い散り、往来の人の忙しげな足どりも、物売のかなしげな呼びごえも
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんな事を言ひ乍ら、小屋の後ろの方、見物人の爲に作つた、葭簾よしず張の便所の側まで行くと、平次は默つて突立つたまゝ、暫くは動かうともしません。
両国広小路のほうにはもう水茶屋が出来て、葭簾よしず張りに色とりどりの暖簾のれんを掛けた小屋が並び、客を呼ぶ女たちの賑やかな声が聞えていた。——おせんは口の中でなにか呟いた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
葭簾よしず張りの茶店に、いろ/\の小旗をなびかせて居りますが、奧は普通の家になつて、其處にお銀と、茶汲女のお松といふ十八九の娘が一緒に住んでゐるのです。
芝居小屋は鎭守ちんじゆの森の後ろ、北向の薄寒さうな空地に、くひを打ち、板を張り、足りないところは、葭簾よしずと古い幕をめぐらして、どうやら恰好だけはつけて居りました。
葭簾よしず張りの茶店に、いろいろの小旗をなびかせておりますが、奥は普通の家になって、そこにお銀と、茶汲女のお松という十八九の娘がいっしょに住んでいるのです。
広小路の葭簾よしず小屋を覗くと、中は空っぽ、薄暗くなると引揚げて、浜町の家へ帰ることを確かめて、玄々斎の隠れ家へ辿り着いたのは、もうすっかり暮れてからでした。
両国の広小路に、葭簾よしずか何か張って、弟子の一人も使っている人相見、その頃、江戸中の評判男で、一部からは予言者ほど尊敬され、一部からは大山師のように言われていた玄々斎でした。
「あの懷中ばかり見てゐた息子も、錢箱の裏ばかり覗いてゐた娘も、逃げたと見せて、實は俺の話を葭簾よしずの外で聽いてゐたよ。俺はあの二人に土竈の仕掛の事を聽かせてやりたかつたんだ」
天井に張った、幕やら葭簾よしずやらを通して、ほんのり月の光が射し込んで、白張も、柳も塔婆も、かなりはっきり見えます。一つは、平次の眼が、この薄暗がりに馴れたせいもあるでしょう。
平次が葭簾よしずの中に顏を突つ込むと、お銀は少しあわてて飛んで出ました。
女房は葭簾よしずの外へ出て、金沢の方へと小手をかざすのです。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
紙の紅葉の枝の下、ひよいと葭簾よしずの中を覗いて
葭簾よしずの前後から飛込んだ平次とガラッ八。
八五郎が葭簾よしずの間からあごを出すのです。