菊之丞きくのじょう)” の例文
床屋とこや伝吉でんきちが、笠森かさもり境内けいだいいたその時分じぶん春信はるのぶ住居すまいで、菊之丞きくのじょう急病きゅうびょういたおせんは無我夢中むがむちゅうでおのがいえ敷居しきいまたいでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
屹度きっと、今度二丁目の市村座いちむらざかかるという、大坂下りの、中村菊之丞きくのじょう一座ところ若女形わかおやま雪之丞ゆきのじょうというのに相違ないでしょう——雪之丞という人は、きまって、どこにか、雪に縁のある模様もよう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「あたい、浜村屋が好きさ、菊之丞きくのじょう女鳴神おんななるかみ——当たったねえ、あの狂言は」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひざずつ乗出のりだしたおせんは、ほほがすれすれになるまでに、菊之丞きくのじょうかおのぞんだが、やがてそのは、仏像ぶつぞうのようにすわってった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのニッコリがまたばかに絢爛けんらん菊之丞きくのじょうの舞台顔を明りで見たよう。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあぶ羽音はおとを、くともなしにきながら、菊之丞きくのじょう枕頭ちんとうして、じっと寝顔ねがお見入みいっていたのは、お七の着付きつけもあでやかなおせんだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
たまのようだといわれたその肌は、年増盛としまざかりの愈〻いよいよえて、わけてもお旗本の側室そくしつとなった身は、どこか昔と違う、お屋敷風の品さえそなわって、あたか菊之丞きくのじょう濡衣ぬれぎぬを見るような凄艶せいえんさがあふれていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)