茗荷みょうが)” の例文
「これは城下の茗荷みょうが屋文左衛門という呉服屋の娘で、名はよの、年は十七です、うちでは紀伊きいと呼びますから、あなたもそう呼んで下さい」
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
茗荷みょうが、菜っ葉——そういったもののみが取り残されて、申し合せたように青い葉の色で畑の健康を維持しているなかに、一株の唐辛が交って
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「ふしぎだねえ。やっぱり老酒のせいかな。そう言えばあの老酒は、ちょっと茗荷みょうがのにおいがしたようだ」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
別に一種の薬味として青紫蘇あおじそ茗荷みょうがの子を細かに刻んだのを用意して置いて、鰹節かつおぶしをたくさんにかき込んで生醤油きじょうゆにそれを混ぜて、冷え切った豆腐に付けて食う。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふき姑女しゅうとめだの茗荷みょうがの子だのという言葉は他にもあるが、杉菜もそれと同様に肥後ではヅキボシノシンルイと呼び、またツクノオバと呼んでいる処もあるのである。
茗荷みょうがをとりて信心にいのり、一生茗荷を食すまじきがんをたつれば、奇妙にしるしあること神のごとし。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「紋所は、抱き茗荷みょうがのような、うろこのような、二つ菊のような——下屋敷が麻布か赤坂——ああ判った」
だから「名をになう」という所から、「名」という字に、草冠をつけて「茗荷みょうが」としたのだといいます。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「北条美作の印籠で、妾があの時にすりましたと、お粂様がおっしゃって渡してくだされたが、抱き茗荷みょうがの定紋が、金蒔絵まきえをなして付いている。美作の印籠に相違あるまい」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
問われるままに、休戦後満洲から帰って来るまでの話をしている中、女中が飯櫃おはちを持出す。おかみさんが茶ぶ台の上に並べるものを見ると、あじの塩焼。茗荷みょうがに落し玉子の吸物。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白く燃えるの下に、草の葉も稲の葉も茗荷みょうがの葉も皆葉端はさきいて、みょうに四辺あたりがしんとなって見える中で、きりぎりすのみがしょうのある者のようにあっちこっちで鳴いていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……(これがうつくしい伯母さんのために出家したおいだと、墨染の袖に、その杜若の花ともあるべき処を)茗荷みょうがつかみ添えた、真竹の子の長いやつを、五六本ぶら下げていましたが
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生垣いけがきの根にはひとむらの茗荷みょうがの力なくのびてる中に、茗荷だけの花が血の気少ない女の笑いに似て咲いてるのもいっそうさびしさをそえる。子どもらふたりの心に何のさびしさがあろう。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
四谷のくぼをひた走りに駈け、茗荷みょうが畑、市ヶ谷並木——なお止まらずに駈けてゆく。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稲田の間にはところどころ茗荷みょうが畑があり、これが早稲田の名物であった。
別に葱の細かく刻んだのや茗荷みょうがだの浅草海苔あさくさのりいてんだのと紅生姜べにしょうがの細かいのだの紫蘇しそだのを薬味にして、炊きたての熱い飯へ残らずぶちかけたのだ。よく攪き廻して食べると実に美味うまいよ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
せめてスカンポか茅花つばなでも無いかと思っても見当らず、茗荷みょうがぐらいは有りそうなものと思ってもそれも無し、山椒さんしょでも有ったらだけでもよいがと、くるしみながら四方あたり見廻みまわしても何も無かった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
茗荷みょうがのうす紅い芽に日が射している。雨は過ぎたらしい。
峰「茗荷みょうががどうしました」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「香りは青じそに限るんだが、茗荷みょうがっきりねえんだからしようがねえ、まあ一つ」「まあおめえにろう」
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何やら蒔絵まきえの紋があったようで、要心深くきれを巻いて隠してありましたが、何かのはずみで見えたのは、抱き茗荷みょうがのような、うろこのような、二つ菊のような、——遠目でよくは判りませんが
人丈に近い茗荷みょうがの葉に、野茨のばらが白くちらちら交って、犬が前脚で届きそうな屋根の下には、羽目へ掛けて小枝も払わぬ青葉枯葉、松まきをひしと積んだは、今から冬の用意をした、雪の山家とうなずかれて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半七は彼を誘って、七、八間ほどもはなれた茗荷みょうが畑のそばへ出た。
あの「茗荷みょうが」という草をご存じでしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)