艶色えんしょく)” の例文
旧字:艷色
宇田川小町とうたわれた非凡の艶色えんしょくは、死もまた奪う由なく、八方から浴びせた提灯の光の中に、凄惨せいさんな美しいものさえかもし出しているのです。
うぐいはやごりの類は格別、亭で名物にする一尺の岩魚いわなは、娘だか、妻女だか、艶色えんしょく懸相けそうして、かわおそくだんの柳の根に、ひれある錦木にしきぎにするのだと風説うわさした。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気品も充分だし、尼さんとしては艶色えんしょくしたたるばかりと見られるばかりであります。
顔の色を林間の紅葉もみじに争いて酒に暖めらるゝ風流の仲間にもらず、硝子ガラス越しの雪見に昆布こんぶ蒲団ふとんにしての湯豆腐をすいがる徒党にも加わらねば、まして島原しまばら祇園ぎおん艶色えんしょくには横眼よこめつかトつせず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すさまじい斬傷きりきずろうのような顔に、昨日の艶色えんしょくはありませんが、黒髪もそのまま、経帷子きょうかたびらも不気味でなく、さすがに美女の死顔の美しさは人を打ちます。
... もあざむきぬ。……たぐいなき艶色えんしょくさきの日七尾の海の渡船にて見参らせし女性にょしょうにも勝りて)……と云って……(さるにても、この若き女房、心かたくなに、なさけつめたく、言わむ方なき邪慳じゃけんにて、)
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
轔々りんりん轟々ごうごう轣轆れきろくとして次第に駈行かけゆき、走去る、殿しんがりに腕車一輛、黒鴨仕立くろがもじたて華やかに光琳こうりんの紋附けたるは、上流唯一の艶色えんしょくにて、交際社会の明星と呼ばるる、あのそれ深川綾子なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)