船唄ふなうた)” の例文
そんな折には彼女はいつも海水着の上に大きなタオルをまとったまま、る時はともに腰かけ、或る時はふなべりまくらに青空を仰いで誰にはばかることもなく、その得意のナポリの船唄ふなうた
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
靜かに心を靜めて、この波のなす曲節を聞いて居ると、かの漁夫の集會の時に歌ふ「船唄ふなうた」の調子を思ひ出さずには居られなかつた。彼がこれを生んだと云つては餘りに牽強ではある。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
やまには木樵唄きこりうたみづには船唄ふなうた驛路うまやぢには馬子まごうた渠等かれらはこれをもつこゝろなぐさめ、らうやすめ、おのわすれて屈託くつたくなくそのげふふくするので、あたか時計とけいうごごとにセコンドがるやうなものであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
歌劇「ホフマン物語」の「船唄ふなうた」は有名だ。旧盤のファーラーがよかったが、近頃のではポリドールのミハツェック(ソプラノ)とハエンダー(バリトン)のはドイツ語だが悪くない(六〇一六八)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
山には木樵唄きこりうた、水には船唄ふなうた駅路うまやじには馬子まごの唄、渠等かれらはこれをもって心をなぐさめ、ろうを休め、おのが身を忘れて屈託くったくなくそのぎょうに服するので、あたかも時計が動くごとにセコンドが鳴るようなものであろう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)