はれ)” の例文
薄い下り眉毛まゆげ、今はもとの眉毛をったあとに墨で美しく曳いた眉毛の下のすこしはれぽったいまぶたのなかにうるみを見せて似合って居ても
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きのうは随分ひどく歩いて疲れて、きょうは顔まではれぼったい程ですがそれでもおなかはケロリとしていて大助りです。
かまちを下りる時、つまを取りそうにして、振向いた目のふちがはれぼったく、小芳は胸を抱いて、格子をがらがら。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其処そこには鏡台が一つ、上へ掛けた被いを取ると、みがかせたばかりの鏡の中に、少しはれっぽくはあるが、涙に洗われてかえって美しくなった自分の顔が映ります。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
とたんに、足のはれも痛みも彼女になかった。水桶を提げて杉木立の小道を彼方へ行く、武者に追いすがって
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
んだかららねえもな手懷てぶところしてつと、如何どうしたんでえなんてくかららかういにはれつちやつていたくつてしやうねえんだなんて、そろうつとしてせつと
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まるではれものに触るように怖れているのだ。あれ以来、上官といえども彼をぞんざいに扱う者はない。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
ねむげなはれぼったい瞼といい、頬皺といい、どこか酒を飲みすぎた人によくありがちな、くろずんだ皮膚といい、一つとして笏の心に変な気が起さずにはいられなかった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お島がはれぼったいような目をして、父親の朝飯の給仕に坐ったのは、大分たってからであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いのちたすかりたるのち春暖しゆんだんにいたればはれやまひとなり良医りやういしがたし。凍死こゞえしゝたるはまづしほいりぬのつゝみしば/\へそをあたゝめ稿火わらびよわきをもつて次第しだいあたゝむべし、たすかりたるのちやまひはつせず。
と、私はきつく言った。なぜなら、この位な皮切りをした方が、彼女をお道楽芸にしておこうとするものへの、決戦的な——といおうか、大切にしているはれものへの大手術だと思ったからだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
新「そんなに気をんではいけない、少しははれ退いたようだよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三人は顔を見合わすと、はれぼったいまぶたを上げて
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして夜ふかしではれぼったくなっためいめいの眼と眼を見合しては、飲みものの硝子ガラスの縁に薄く口を触れさしていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから瞼のはれへ掌をあてながら、しきりにそこの熱を気にしているふうだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人肌ひとはだにてあたゝむはもつともよし)手足てあしこゞえたるもつよ湯火たうくわにてあたゝむれば、陽気やうきいたれば灼傷やけどのごとくはれ、つひにくさりゆびをおとす、百やくこうなし。これが見たる所をしるして人にしめす。
お貞はハッとせし風情にて、少年の顔をみまもりしが、はれぼったき眼に思いを
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
したがって家内いえ中ではれものにでも触るような態度を取り、そばを歩くに、足音さえもぬすむようになる。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かたなしのしわになりましたが、若い時は、その薄紅うすくれないはれぼッたいまぶたが恐ろしく婀娜あだだった、お富といって、深川に芸者をして、新内がよく出来て、相応に売った婦人おんなでしたが、ごくじみなたち
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏となって、皮膚の湿疹しっしんはよけいにひどくなり、髪の根にははれさえもってきたが、ただそれだけの歳月が、この牢獄の内にも過ぎたことはたしかである。——時の歩み以外に待つものとては何もない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不思議な処へ行合せた、と思ううちに、いや、しかし、白い山茶花のその花片はなびらに、日の片あたりが淡くさすように、目がはれぼったく、殊に圧えた方のまぶたの赤かったのは、煩らっているのかも知れない。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)