脊髄せきずい)” の例文
旧字:脊髓
口の届く所ならむ事も出来る、足の達する領分は引きく事も心得にあるが、脊髄せきずいの縦に通う真中と来たら自分の及ぶかぎりでない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると熱いものが脊髄せきずいの両側を駆け上って、喉元のどもとを切なくき上げて来る。彼は唇を噛んでそれを顎の辺で喰い止めた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お母さんは、お父さんの死んだ直後に病床に倒れてしまった。脊髄せきずいカリエスなのだ。もう十年ちかく寝たきりである。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのほうに素早すばやく目を転じたが、その物すごい不気味ぶきみさに脊髄せきずいまで襲われたふうで、顔色をかえて目をたじろがした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこまで考えた私は、その刹那せつな脊髄せきずいの中心を、氷の棒で貫かれた感じで、その、世の常ならぬ恐怖のために、心の臓まで冷たくなるのを覚えました。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘にしてもいような、美しい細君を迎えて、まだ一年と立たないうちに、脊髄せきずい病で亡くなられたということは、中学にいた時、うわさに聞いていたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
日本の脊髄せきずいを東北へ貫いて、地勢を裏と表に分かつ山脈へは、毎年深い雪が積もることは誰でも知っている。
水と骨 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
かくのごとき反射作用は、神経組織中の延髄、脊髄せきずいより生ずるものにして、大脳より生ずるものにあらず。大脳は感覚、知覚の中枢にして、精神、思想の本位なり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
生死出離しょうじしゅつりの大問題ではない、病気が身体を衰弱せしめたためであるか、脊髄せきずい系をおかされて居るためであるか、とにかく生理的に精神の煩悶を来すのであつて、苦しい時には
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
武男は後頂より脊髄せきずいを通じて言うべからざる冷気の走るを覚えしが、たちまち足を踏み固めぬ。他はいかにと見れば、砲尾に群がりし砲員の列一たびは揺らぎて、また動かず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
路の二丁も担いで来ると、雪を欺く霜の朝でも、汗が満身に流れる。鼻息は暴風あらしの如く、心臓は早鐘をたゝく様に、脊髄せきずいから後頭部にかけ強直症きょうちょくしょうにかゝった様に一種異様の熱気ねつけがさす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
脊髄せきずいの筋肉の堅くなって居るのをよくんで遣りますとどうやら甦って来たです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
平衡感覚ヲツカサドル神経ハドコヲ通ッテイルノカ知レナイガ、イツモ後頭部ノトコロ、チョウド脊髄せきずいノ真上ノトコロニ空洞くうどうガ生ジタヨウナ感ジガシ、ソコヲ中心ニ体ガ一方ヘ傾クノデアル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恍惚こうこつとして人事を忘れて、人は樹下に夢想し得るにかかわらず、甲の飢えや乙のかわきや、貧しき者の冬の裸体、子供の脊髄せきずい淋巴性彎曲りんぱせいわんきょく煎餅蒲団せんべいぶとん、屋根裏、地牢ちろう、寒さに震える少女のぼろ
死亡大正十三年九月二十七日。病名脊髄せきずいカリエス。云々である。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
後姿がまだチラついた。青いわたしの脊髄せきずいの闇に……。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「ねえ先生。あれは脊髄せきずい神経が見る夢なんでげしょう」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けがれたる脊髄せきずい端々はしばしをついばましめん。
天井に丸くランプの影がかすかに写る。見るとその丸い影が動いているようだ。いよいよ不思議になって来たと思うと、蒲団ふとんの上で脊髄せきずいが急にぐにゃりとする。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今、仮に「伊」を部位の中枢と定め、「仁」を中央の中枢と定めて論ずるに、「伊」および「イ」は脊髄せきずいもしくは各部位の神経節にして、「仁」は脳髄なりと想定することを得べし。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
すると彼の憎みは目当てが出来たので、にわかにそれへ注がれた。憎みは強い怒りとなってかの煙に注がれた。みるみる身体が熱くなって今迄に覚えないたくましい生気が脊髄せきずいを突き上げて来た。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分の脊髄せきずいをあるものがいなずまのごとく走った。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
青空は麗しき脊髄せきずい
「それは駄目にきまっています。釣られて脊髄せきずいが延びるからなんで、早く云うと背が延びると云うよりこわれるんですからね」「それじゃ、まあめよう」と主人は断念する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
牛の脊髄せきずいのスープとったような食通しょくつう無上むじょうに喜ばせる洒落しゃれた種類の料理を食べさせる一流の料理店からねぎのスープを食べさせる安料理屋に至るまで、巴里の料理は値段相当のうまさを持っている。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)