ちょ)” の例文
私の成功のちょく処までは是非存命でいてもらいたいと思った甲斐かいもなく、困難中にかれたことと、今度また折角苦しい中から
この「新・平家物語」では今、清盛が四十八歳から五十歳への、彼の人間ざかりと、一門繁昌のちょにあるところを書いております。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民間説話の採集は、今から十数年前、すこしくちょについたかと思った際に、ちょうど我々の国では最悪の障碍しょうがい逢着ほうちゃくした。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかるに荷物の整理いまだそのちょかざるを以て、観測所のかたわらの狭屋きょうおくに立場もなきほど散乱したる荷物を解き、整理を急ぐといえども、炊事すいじす暇だになければ
大にしては日本婦人たるの任務を尽さしめんとす、しかして事ややそのちょけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
何か言いたいような風であったが、談話のちょを得ないというのらしい、ただ温和な親しみ寄りたいというが如き微笑をかすかたたえて予と相見た。と同時に予は少年の竿先に魚のきたったのを認めた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
べんジ其名実ヲただシ集メテ以テ之ヲ大成シ此ニ日本植物誌ヲ作ルヲ素志そしトナシ我身命ヲシテ其成功ヲ見ント欲スさきニハ其宿望遂ニ抑フ可カラズ僅カニ一介書生ノ身ヲ以テ敢テ此大業ニ当リ自ラなげうツテ先ヅ其図篇ヲ発刊シ其事漸クちょつきシトいえどモ後いくばクモナク悲運ニ遭遇シテ其梓行しこうヲ停止シ此ニ再ビ好機来復ノ日ヲ
が、縁者の一個ひとり殉職じゅんしょくなどは取るに足りません。憂うるところは、これが天下に及ぼす騒乱のちょをなしては一大事と存ずるのです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄槌かなづちを以て器械に附着したる氷雪を打毀うちこわす等、その他千種万態ばんたいなる困難辛苦を以て造化の試験を受けてやや整頓のちょに就かんとせし所に、はからずもさい登山しきたりたり
彼への服従が、彼への忠誠になったりすると、今、ようやくちょについたばかりの鎌倉に分裂の下地を招くようなものと憂えられてもくる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのときまだ一側用人だった吉保が、次の奉行となって、お気に入ったのが、彼の今日ある立身のちょであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもわず義憤の眼をかがやかしかけたが——お袖の居所が知れるちょをにおわせられては、心何ものもなく、あらゆる矜持きょうじも失って、阿能十の前に何度も、頭を下げた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)