素志そし)” の例文
尊氏へたいして、一歩前進を見せ、親房は亡くも、決して素志そしうしなう南朝でないことを、つよく示されたものといえる。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予はここに於て終に十年来の素志そしを達する能わずして、下山のむべからざるに至りたれば、腑甲斐ふがいなくも一行にたすけられて、吹雪の中を下山せり
若い清純な先生の気もちには、村のこういう淫らな雰囲気は耐えられないところであったが、これを機会に素志そしである音楽修業に出たい、と思いたったのであった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
その端緒とは他に非ず、即ち今回日清争端を開かば、この挙に乗じ、平常の素志そしを果さん心意なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かりにその上書建白をして御採用の栄を得せしめ、今一歩を進めて本人も御抜擢ごばってきの命を拝することあらん。しこうしてその素志そし果して行われたるか、案に相違の失望なるべし。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ば爲可き者と早も見て取り知たれば我思ふよし云々と吉宗よしむねぬしに言上ごんじやうせしに君又英敏えいびん明才めいさいにていよ/\政治せいぢ改良かいりやうして公方くばうの職を萬世ばんせい不朽ふきうに傳へんといふ素志そしなれば今大岡の言るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
巌谷いはや紹介せうかいで入社したのが江見水蔭えみすゐいんです、この人は杉浦氏すぎうらし称好塾せうこうじゆくける巌谷いはや莫逆ばくぎやくで、素志そしふのが、万巻ばんくわんの書を読まずんば、すべから千里せんりの道をくべしと、つねこのんで山川さんせん跋渉ばつせふ
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
べんジ其名実ヲただシ集メテ以テ之ヲ大成シ此ニ日本植物誌ヲ作ルヲ素志そしトナシ我身命ヲシテ其成功ヲ見ント欲スさきニハ其宿望遂ニ抑フ可カラズ僅カニ一介書生ノ身ヲ以テ敢テ此大業ニ当リ自ラなげうツテ先ヅ其図篇ヲ発刊シ其事漸クちょつきシトいえどモ後いくばクモナク悲運ニ遭遇シテ其梓行しこうヲ停止シ此ニ再ビ好機来復ノ日ヲ
御身おんみ素志そしたる忠君愛国の実を挙げ給え、仮令たとい刑期は一年半たりとも減刑の恩典なきにしもあらねば一日も早く出獄すべき方法を講じ、父母の膝下しっかにありて孝を尽せかしなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
旅籠料はたごりょうにも窮していたとき、彼女がみどりの黒髪を切って金に換え、その急場を切りぬけて、良人おっと素志そしを励ましたことなどは——彼女自身はおくびにも語ったことはないが
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここには、かつて自分が旗上げの日にめた願文がんもんがおさめられてある。——一には世のために、二には朝家のため、三にはわが源家再興のため——と素志そしを天にちかった願文だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)