硝子越ガラスごし)” の例文
根本的に無理な空想を実現させようとたくらんでいるのだから仕方がないと気がついた時、彼は一人で苦笑してまた硝子越ガラスごしに表を眺めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汽車が小諸を離れる時、プラットフォムの上に立つ駅夫等の呼吸いきも白く見えた。窓の硝子越ガラスごしながめると田、野菜畠、桑畠、皆な雪におおわれて、谷の下の方を暗い藍色あいいろな千曲川の水が流れて行った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただ浴槽ゆぶねの中に一人横向になって、硝子越ガラスごしに射し込んでくる日光をながめながら、呑気のんきそうにじゃぶじゃぶやってるものがある。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎けいたろうが梯子段の中途で、及び腰をして、硝子越ガラスごし障子しょうじの中をのぞいていると、主人の頭の上で忽然こつぜん呼鈴ベルはげしく鳴り出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時は指のまたに筆をはさんだまま手のひらあごを載せて硝子越ガラスごしに吹き荒れた庭を眺めるのがくせであった。それが済むと載せた顎を一応つまんで見る。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある晩宴会があって遅く帰ったら、冬の月が硝子越ガラスごしに差し込んで、広い縁側えんがわがほの明るく見えるなかに、鳥籠がしんとして、箱の上に乗っていた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或時は自分と全く交渉のない、珊瑚樹さんごじゅ根懸ねがけだの、蒔絵まきえ櫛笄くしこうがいだのを、硝子越ガラスごしに何の意味もなく長い間眺めていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天気の好い時は薄い日を硝子越ガラスごしに浴びて、しきりに鳴き立てていた。しかし三重吉の云ったように、自分の顔を見てことさらに鳴く気色はさらになかった。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ハハハハ行くだろう」と宗近君は頭陀袋ずだぶくろたなへ上げた腰をおろしながら笑う。相手は半分顔をそむけて硝子越ガラスごしに窓の外をすかして見る。外はただ暗いばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宝石商の電灯は今硝子越ガラスごし彼女かのおんなの鼻と、ふっくらした頬の一部分と額とを照らして、はすかけに立っている敬太郎の眼に、光と陰とから成る一種妙な輪廓りんかくを与えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書斎には洋机テーブル椅子いすほかに、沢山の書物が美しい背皮せがわを並べて、硝子越ガラスごし電燈でんとうの光で照らされていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼がめたら雨はいつの間にかんで、奇麗きれいな空が磨き上げたように一色ひといろに広く見える中に、明かな月が出ていた。余は硝子越ガラスごしにこの大きな色をのぞいて、思わず是公のために、舞踏会の成功を祝した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外部そとには穏やかな日が、障子にはめめた硝子越ガラスごしに薄く光っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)