生来うまれつき)” の例文
旧字:生來
自分は生来うまれつき外出そとでを好まなかった所へ父母が其様そんなであるから、少しは意地にもなって、全く人目に触れない女になってしまおう
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
成程女は氏なくして玉の輿という、生来うまれつきの美しさ、しとやかさ、すこやかさ、それらがやがて地位なり、財産というものなのだ。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
イエス行く時、生来うまれつきなるめくらを見しが、其弟子彼に問ふて曰ひけるは、ラビ、此人の瞽に生れしは誰の罪なるや、己に由るか、又二親に由るか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは生来うまれつきの低脳者で、七歳ななつになる時に燐寸マツチもてあそんで、自分のうちに火をつけて、ドン/\燃え出すのを手を打つて喜んでゐたといふ児ですが
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
折角たまに教会へ出れば二度と顔出しの出来ないような事が起る。そして皆がの子は善くない善くないと言う。何処まで損な生来うまれつきだか知れやしない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
心優しき生来うまれつきの、おのずから言外の情が籠るため、病者は少なからぬ慰安を感じて、結句院長の廻診より、道子の端麗な、この姿を、待ち兼ねる者が多い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尤も僕は、謙遜するわけでは毫もないんだけれどもさ、生来うまれつきのれつきとした迂闊者でね、青と言や青だけしか思ひ付かないたちなんだあ。青は断じて青なんだよ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
生来うまれつきの美しい目鼻立の何処どこやらにはさすがに若い頃の美貌びぼうのほどもうかがい知られるのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生来うまれつき頭脳あたまはそんなに悪いとは思いませんけれど、いたって挙動が鈍く手先が不器用ですから、小学校時代には「のろま」中学校時代には「愚図ぐず」という月並な綺名あだなを貰いました。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
生来うまれつき体が弱いから、お産が重くでもあったら、さぞこたえるであろうと思って、朝晩に気をつけて大事にしていること、牛乳を一合ずつ飲まして、血の補いをつけておることなども話した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ほだべがな。おら足は生来うまれつき、靴なんか穿ぐように出来でねえんだな。」
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
後者には何人でも成れぬことはないが、前者は百人に一人、千人に一人しか無いもので、学んで出来ることではない、謂はば生来うまれつきの教育者である——ツて。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
分けて足のうらのざらざらするのが堪難たえがたい、生来うまれつきの潔癖、しげみの動く涼しい風にも眉をひそめて歩を移すと、博物館の此方こなた、時事新報の大看板のある樹立こだちの下に、吹上げの井戸があって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お島に聞いたら、あれはおどかしだと言ったが、お父さんは大分怒ってるようだ。乃公見たいな者はっとして坐っていれば宜い。一寸すこし身体を動かして何かするとそれが直ぐ悪戯になる。厄介な生来うまれつきだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
恐らく生来うまれつきであらう、左の方が前世に死んだ時の儘で堅く眠つて居る。右だつて完全な目ではない。何だか普通なみの人とは黒玉の置き所が少々違つて居るやうだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
松太郎は、二十四といふ齢こそ人並に喰つてはゐるが、生来うまれつきの気弱者、経験おぼえのない一人旅に今朝から七里余の知らない路を辿つたので、心のしんまでも疲れ切つてゐた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
斯う思ふのは、彼が年中青い顔をしてゐるヒステリイ性の母に育てられ、生来うまれつき跛者ちんばで、背が低くて、三十になる今迄嫁にも行かずに針仕事許りしてゐる姉を姉としてゐるせゐかも知れぬ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『一体肇さんと、僕とは小児こどもの時分から合はなかツたよ。』と忠志君はまた不快な調子で口を切る。『君の乱暴は、或は生来うまれつきなのかも知れないね。そら、まだお互に郷里くにに居て、尋常科の時分だ。 ...
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)