牛車ぎっしゃ)” の例文
さりとて何を争うことも出来ないので、すごすごと別れてここを立ち去ると、青糸毛の牛車ぎっしゃがこの屋敷の門前をしずかにきしらせて通った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
門の下の人の海はますます広がって行くばかりで、しばらくする内には牛車ぎっしゃかずも、所によっては車の軸が互に押し合いへし合うほど、多くなって参りました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
遅々たる牛車ぎっしゃで、内裏だいりから退がって来るには、ぬかるみ、石コロ道、秋草しげき田舎道、さんざんかかる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公卿くげが衣冠をつけて牛車ぎっしゃ参内さんだいするというのは、京の俳趣を現して居るが、大名が鳥毛の槍をふらせて駕籠かごで登城するというのは、江戸の俳趣を現して居るのです。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
自動車の使用が盛になってから、今日では旧式の棺桶かんおけもなく、またこれを運ぶ駕籠かごもなくなった。そして絵巻物に見る牛車ぎっしゃと祭礼の神輿みこしとに似ている新形の柩車きゅうしゃになった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
選ばれた日のその翌朝、香取は宮殿から送られた牛車ぎっしゃに乗って登殿した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
中にはいたいけな童児が手押車を押し悩んでいるのもございます。わたくしも、その絡繹らくえきたる車の流れをかいくぐるように、御家財を積んだ牛車ぎっしゃを宰領して、幾たび賀茂の流れを渡りましたやら。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
三浦の門前で出逢った牛車ぎっしゃのぬしは、どうも玉藻であるらしく思われた。たとい玉藻であるとしても、往来で人に逢うのは不思議でない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
関白は、うじ長者ちょうじゃといわれ、参内には、内覧ないらん兵仗へいじょう牛車ぎっしゃをゆるされる人臣至上の職であるが、尾張中村の一百姓の子には、もともと、はっきりしたうじも家系もない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四五日の間はおれにうても、挨拶あいさつさえろくにしなかった。が、そののちまた遇うたら、悲しそうに首を振っては、ああ、都へ返りたい、ここには牛車ぎっしゃも通らないと云うた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
中にはいたいけな童児が手押車を押し悩んでゐるのもございます。わたくしも、その絡繹らくえきたる車の流れをかいくぐるやうに、御家財を積んだ牛車ぎっしゃを宰領して、幾たび賀茂の流れを渡りましたやら。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
青糸毛あおいとげだの、赤糸毛あかいとげだの、あるいはまた栴檀庇せんだんびさしだのの数寄すきを凝らした牛車ぎっしゃが、のっしりとあたりの人波を抑えて、屋形やかたに打った金銀の金具かなぐを折からうららかな春の日ざしに
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
残暑の往来を、牛車ぎっしゃが、ほこりをたててきしる。貴人の輿こしが通って行く。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兼輔は牛車ぎっしゃに乗って来なかったのを悔んだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
牛車ぎっしゃの行きかいのしげかった道も、今はいたずらにあざみの花が、さびしく日だまりに、咲いているばかり、倒れかかった板垣いたがきの中には、無花果いちじゅくが青い実をつけて、人を恐れないからすの群れは
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たださっき通った牛車ぎっしゃのわだちが長々とうねっているばかり、その車の輪にひかれた、小さなながむしも、切れ口の肉を青ませながら、始めは尾をぴくぴくやっていたが、いつかあぶらぎった腹を上へ向けて
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)