やいと)” の例文
大きなやいとを心にすゑて苦しむ——それは別の心ゆかせもあらうが、さういふ意味でなく、自分を叱るお灸も心にすゑなければならない。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
かんやいとは、いくらすえたか知れませぬ。あんな子に、あなたが、刀を見せたり、御先祖のはなしなど聞かせるから、いけないんですよ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……貴女は女無理して歩いて、さて旅籠はたごへ着いてから、ソレ按摩じゃ、ヤレやいとじゃと、泣顔をして騒がれても、拙者決して取り合いませぬぞ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やいとすえたいうやないか、男子の中で一番えらい精神的な仕事した人は、お釈迦しゃかさんでもキリストでも中性に近かった人やないか、そやさかい自分みたいなんは理想的人間や
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「阿呆んだら。何ちゅう情けない子や、お前は。こっちイ来い。やいとすえたるさかい」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
おのれまたやいとすゑられあるごとし馬のこころにいつなりにけむ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朝夕の食膳のこまかい注意から、帝がもっとも嫌いなやいとでさえ、月々の七日きゅうは、いやおうなしにえてしまうなど、そんな芸は、廉子でなくばなしえない妙術だった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこで嗅ぎつけて来るのか、今日はどこそこで何んな博奕があるかちゃんと知っているらしく、毎日出掛ける。一度誘われて断ったが、その時何かの拍子に、婆さんはもとやいと婆であったときいた。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
医者の薬なんぞきはしない、どんなに偉い大学の先生にかかってもそう簡単に直るはずはない、それより私にお任せなさい、け合って直して上げる、私は指壓ばかりでなく、はりやいとも施術する
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
せんずれば馬もほとけの身なれどもやいとすゑられてけばかなしも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いわゆる“お姉さん女房”の准后じゅんごう三位ノ廉子やすこも、みかどのこの病だけには、やいとを持ちだすこともできず、「……ま。おからだをおこわしなさらぬほどに」と、しなよく苦笑して
背は向けてやいとこらふる若葉どき妻が手触たふりしじるかも
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「また、あの子はやいとをすえおるかと、訊かれたことであろ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しみじみと馬にやいとをすうる時馬かはゆしと思ひけるかも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「なるほど、やいともぐさは、この土地の名産だっけな」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんの虫だ。このうなじに、疳のやいとをすえてやれ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)