洞穴どうけつ)” の例文
ヤナツについていってみると、なるほど微小人間が四五百人も集っている洞穴どうけつがあった。彼等は私を見懸みかけて別にさわぐでもなかった。
そこにはもはや、青葉棚あおばだなも芝生も青葉トンネルも洞穴どうけつもなく、ただヴェールのような交錯したみごとな影が四方に落ちてるのみだった。
十力じゅうりき金剛石こんごうせきはきらめくときもあります。かすかににごることもあります。ほのかにうすびかりする日もあります。あるときは洞穴どうけつのようにまっくらです」
翌日四人はふたたび前進をつづけた、四人の目的は、この地が、島か大陸かを見さだめることと、いま一つは、冬ごもりをする洞穴どうけつを、さがしあてることである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
うつむいて、足下を見詰めながら歩いていた私はその時ふと、洞穴どうけつのような狭い所からひろびろした所へ出かかっているような気がしたので、何気なく顔をもたげた。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
穴倉へもい込んだ、洞穴どうけつにも入った、少しでもふたおおいのある下へは、皆き入ろうと努めた。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
撮影機をかかえた人や、蝋燭ろうそくを持った人の姿がぼうと見えた。じっとしていると、壕の壁は冷え冷えとした。ふと彼にはそこが古代の神秘な洞穴どうけつのなかの群衆か何かのようにおもえた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
霊魂を毛唐に売り渡す破廉恥はれんち至極の所業であるとされて、社会のはげしい侮蔑ぶべつと排斥を受けなければならなかったが、自分たちは、てんで気にせず、平然とその悪魔の洞穴どうけつ探検を続けた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
然れば形状に由りてひとしく石槍と稱する物の中には、其用より云へば、槍も有るべく、短刀たんたうも有るべきなり。フランス、ベリゴードの洞穴どうけつよりは馴鹿の脊椎に石槍の立ちたる物を發見せし事有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
あなたはあのとき、びッしょり濡れて、善霊峰の下の洞穴どうけつに、風雨をけていた。スカアトのひだも崩れ、手巾ハンカチかぶって強風にあおられている。あなたは、朝の印象もあって、ばかに惨めにみえました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
この半腹の洞穴どうけつにこそかの摩利支天はまつられたれ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、それはこういうわけだ。ぼくは、一番先に塀を下りた。すると、そこに小さな洞穴どうけつがあいていた、ほら、見えるだろう、あれだ」
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
洞穴どうけつの口が開いていた時代、そして怪物の頭がたちまち地下から出て来るのが見られた時代、そういう時代には我々はもはやいないのである。
きょうはいいお天気であったので、三角岳登山を試みたのであったが、途中で雷に出あい、洞穴どうけつの中にとびこんで雷鳴らいめいのやむのを待った。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくのごときすなわちスペインの古い修道院のありさまである。恐るべき帰依の巣窟そうくつ、童貞女らの洞穴どうけつ、残忍の場所である。
動脈は両のこめかみに、鍛冶屋かじやつちのように激しく脈打っているのが聞こえ、胸から出る息は洞穴どうけつから出る風のような音を立ててるらしく思えた。
「そうか。きみも獣説けものせつか! するとわれわれは今、その怪獣かいじゅうのすんでいる洞穴どうけつのなかにいるんだろうか」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
飢渇がその出発点であり、サタンとなることがその到達点である。そういう洞穴どうけつから凶賊ラスネールが現われて来る。
すべり下りると、そこには一つの関所せきじょがある。重い回転扉のはまった球形きゅうけいの大きい洞穴どうけつみたいな部屋だ。つまりこの部屋は、空気の関所だ。それより奥は、空気がいのだ、手前の方は空気が薄い。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身長六尺、大理石のような胸郭、青銅のような腕、洞穴どうけつから出るような呼吸、巨人のような胴体、小鳥のような頭蓋ずがい
そして洞穴どうけつ利用の倉庫がどんなものか、はっきり見えた。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、兄弟のごとくまた法官のごとく、同時に慈愛と峻厳しゅんげんとに満ちた心をもって、なかなかはいれない地下の洞穴どうけつまで下ってゆかなければならない。
洞穴どうけつに、ふねをつけろ」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
地上にては了解が不可能であり、地下にては脱出が不可能だった。言語の混乱の下には洞穴どうけつの混乱があった。迷宮がバベルの塔と裏合わせになっていた。
百年前には、夜中短剣がそこから現われてきて人を刺し、また掏摸すりは身が危うくなるとそこに潜み込んだ。森に洞穴どうけつのあるごとく、パリーには下水道があった。
およそ泥土でいどは決して令名を得るものではないけれども、当時はその悪名が恐怖を起こさせるほどに高かった。パリーは漠然ばくぜんと、自分の下に恐ろしい洞穴どうけつがあるのを知っていた。
さあれくま洞穴どうけつに帰るなり。