桑畠くはばたけ)” の例文
とうさんのおうちはうからますと、大黒屋だいこくや一段いちだんたか石垣いしがきうへにありまして、その石垣いしがきのすぐしたのところまでとうさんのおうち桑畠くはばたけつゞいてましたから
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかもその人家は「時」の大きな手にすつかりはらつて取去られて了つたかのやうに一軒もそこに見出されなかつた。すつかり桑畠くはばたけと野菜畑とになつてゐた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのおひな井戸ゐどから石段いしだんあがり、土藏どざうよことほり、桑畠くはばたけあひだとほつて、おうち臺所だいどころまでづゝみづはこびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くろ枯枝かれえだくろえるおうちうら桑畠くはばたけわきで、毎朝まいあさぢいやはそこいらからあつめて落葉おちばきました。あさ焚火たきびは、さむふゆるのをたのしくおもはせました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
北国街道を左へ折れて、桑畠くはばたけの中の細道へ出ると、最早もう高柳の一行は見えなかつた。石垣で積上げた田圃と田圃との間の坂路を上るにつれて、烏帽子ゑぼし山脈の大傾斜が眼前めのまへに展けて来る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
枯々な桑畠くはばたけの間には、其車の音がから/\と響き渡つて、いて行く犬の叫び声も何となく喜ばしさうに聞える。心の好い叔父は唯訳も無く身を祝つて、顔の薄痘痕うすあばた喜悦よろこびの為に埋もれるかのやう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何処の城跡へ行つても、大抵は桑畠くはばたけ。士族といふ士族は皆な零落して了つた。今日迄踏堪ふみこたへて、どうにかかうにか遣つて来たものは、と言へば、役場へ出るとか、学校へ勤めるとか、それ位のものさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)