暗雲やみくも)” の例文
……とこう考えては今日の記憶を繰返し、くり返しては又考え直しつつ、暗雲やみくもに足を早めたり、ゆるめたりして歩いて行った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
聞いただけで、理由もわからず暗雲やみくもに感動して出征するのを見て、男って野蛮人だなあと思って呆れかえっちゃった
兵士と女優 (新字新仮名) / 渡辺温オン・ワタナベ(著)
色が白いとか恰好が何うだとか言ふて世間の人は暗雲やみくもに褒めたてたもので御座ります、私が如何にも放蕩のらをつくして家へとては寄りつかぬやうに成つたを
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ暗雲やみくもに決議ばかりしてしまったので、決議はしても今に誰かに持って行かれそうな気がして、どうも何だか奥歯に物の挟まったような工合であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
男の姿に追ひ使はれたペンの先きには、自分の考へてゐる樣な美しい藝術の影なぞは少しも見られなかつた。唯男の處刑を恐れた暗雲やみくもの力ばかりであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
成程、今度は至って無難だったが、橋口先生御指南の厳しさ、暗雲やみくもに唸らせられたと見えて
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馬車馬のように暗雲やみくもにかせぐのはいいことなのであった。そして、資本主にとってもこの事はこの上もなくよいことであったのだ。そして、そのころは欧州戦争が行なわれていたのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ようようお若をなだめましたんで、ホッと一息つき、それでは手に手をとって駈落と相談は付けたものゝ、たゞ暗雲やみくも東京こちらをつッ走ったとて何処どこ落著おちつこうという目的めどがなくてはなりません
わかれといたしまして、其處そこらの茶店ちやみせをあけさせて、茶碗酒ちやわんざけをぎうとあふり、いきほひで、暗雲やみくもに、とんぼをつてころげるまでも、今日けふうちふもとまでかへります、とこれからゆき伏家ふせやたゝくと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
事務室の中に、丸茂三郎がたった一人残って居ることを確かめると、其の儘エレベーターで下へ降りるなり、円タクに飛び乗って、暗雲やみくもに、香川礼子のアパートへ駆け付けてしまったものです。
暗雲やみくもにヒッパクした故郷からの手紙だ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
してお内儀かみさんはと阿関の問へば、御存じで御座りましよ筋向ふの杉田やが娘、色が白いとか恰好かつかうがどうだとか言ふて世間の人は暗雲やみくもに褒めたてたもので御座ります
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暗雲やみくもに奥へ奥へと逃げ込んで、農家の水みをして昼の麺麭パンを恵まれたり、麦畑の除草を手伝って晩飯にありついたり、正規の入国手続きを踏んでいないのですから
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
してお内儀かみさんはと阿關おせきへば、御存ごぞんじで御座ござりましよ筋向すぢむかふの杉田すぎたやがむすめいろしろいとか恰好かつかううだとかふて世間せけんひと暗雲やみくもめたてたもの御座ござります
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もしも何かの間違いということがあって昨夜ったのがほんものの姉妹きょうだいで、もし今日私を迎えに出て来てくれた場合、いきなり暗雲やみくもに切ってかかられてはなりませんから
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)