旅合羽たびがっぱ)” の例文
脚絆きゃはん、ちり紙、旅合羽たびがっぱ、道中薬、そんな物が買って来たばかりらしくならべてあった。お蔦は、つり銭を、財布へ入れながら
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さびに馬上の身を旅合羽たびがっぱにくるませたる旅人たびびとあとよりは、同じやうなるかさかむりし数人の旅人相前後しつつ茶汲女ちゃくみおんなたたずみたる水茶屋みずちゃやの前を歩み行けり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黄色い桐油とうゆ旅合羽たびがっぱを着た若侍が一人松の間に平伏している。薄暗がりのせいか襟筋えりすじが女のように白い。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(地図参照)伝吉は現在平四郎の浄観じょうかんと云っているのも確かめた上、安政六年九月七日なのか菅笠すげがさをかぶり、旅合羽たびがっぱを着、相州無銘そうしゅうむめい長脇差ながわきざしをさし、たった一人仇打ちののぼった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旅合羽たびがっぱをひらひらさせて、唖の男の駈けてゆく彼方かなたから、これも山馴れたわらじばきで、スタスタと急いで来る姿が見えます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝吉はまず雨落あまおちの石へそっと菅笠すげがさ仰向あおむけに載せた。それから静かに旅合羽たびがっぱを脱ぎ、二つにたたんだのを笠の中に入れた。笠も合羽もいつのにかしっとりと夜露よつゆにしめっていた。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「これ! ただ今この中へ、旅合羽たびがっぱを着た四十がらみの男が逃げこんで来たはずだが、そち達、見かけなかッたかどうじゃ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この日、霧はやがて冷たい細雨と変り、県境の長い楓林ふうりんの道は、兄弟の范陽笠はんようがさ旅合羽たびがっぱをしとどに濡らした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追いつつ先の曲者しれものの姿を見ると、太縞ふとじま旅合羽たびがっぱこんのきゃはん、道中師戸隠とがくしの伊兵衛というのはあの野郎です——と釘勘が目で囁いた人相の者にちがいはない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅合羽たびがっぱ手甲てっこう脚絆きゃはん、きびきびとした素草鞋すわらじ、どこか、抜目のない様子、旅稼たびかせぎの遊び人かとも見える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこで支度をととのえたか、旅合羽たびがっぱ道中差どうちゅうざし、一文字もんじがさを首にかけて
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっき、船を上った時から、絶えず物蔭ものかげから物蔭を伝わってけて来た旅合羽たびがっぱの男が、するりと、側へ、からむように寄り付いて来たかと思うと、いきなり、合羽の下に潜ませていた匕首あいくちを向けて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)