撞着どうちゃく)” の例文
ことに内心の羅針盤らしんばんを欠いてるために、自家撞着どうちゃくをきたし、自己を破壊するようなことばかりをし、自己を否認しているのであった。
無所有の世界を所有せんとするこの撞着どうちゃくした熱望について、自身はなんらの矛盾を自覚するほどに昂奮からさめてはいないようです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かく、空想的なるところにこそ児童の本質があるのであって、彼等にとっては、現実とその空想とは、何等撞着どうちゃくするものでないのです。
時代・児童・作品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
而して我々が斯く自己自身の根柢において自己矛盾に撞着どうちゃくするというも、自己自身によるのでなく絶対の呼声でなければならない。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
セキスピアもバナードショオも背後に撞着どうちゃく倒退とうたい三千里せしむるに足るていの痛快無比の喜悲劇の場面を、生地きじで行った珍最期であった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
撞着どうちゃくが撞着のようにも考えられなかった。葉子への優先権というようなものをも、曖昧あいまいな計算のなかへそれとなく入れてもいたのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ではもう心ある者は問題にしていないという言葉はどうなるのか、秀之進はその撞着どうちゃくするところにこそ理由があると考えた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これを一見するに、どうしても未開の民たるを免れぬように思わる。また、御札につきて自家撞着どうちゃくのこともすくなくない。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
お前は多分そこから救い出されるだろう。その不平均の撞着どうちゃくの間からわずかばかりなりともお前の誠実を拾い出すだろう。その誠実を取り逃すな。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かくて歳月の経過と共に、神より出でしものが、いつしかその本来の面目を失い、矛盾、撞着どうちゃく、虚妄、愚劣の不純分子をもって充たさるるに至った。
「申されたり王朗。足下の弁やまことによし。しかしその論旨は自己撞着どうちゃく偽瞞ぎまんに過ぎず、聞くにたえない詭弁きべんである。さらばまず説いて教えん」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしそうであるならば、意識形態相互の間の類型的および類構的関係とは撞着どうちゃくすることなしに我々はイデオロギーの成層構造を考えることが出来る。
科学批判の課題 (新字新仮名) / 三木清(著)
また細心で、正確で、用心深く、注意深く、怜悧れいりで、疲労を知らなかった。時としては矛盾し撞着どうちゃくすることもあった。
それを読んでいた時字書を貸してもらった。蘭和対訳の二冊物で、大きい厚い和本である。それを引っ繰り返して見ているうちに、サフランと云う語に撞着どうちゃくした。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女役者として巍然ぎぜんと男優をも撞着どうちゃくせしめた技量をもって、小さくとも三崎座に同志を糾合きゅうごうし、後にはある一派の新劇に文士劇に、なくてならないお師匠番として
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とは、しんの男子の態度であろう。男もこの点まで思慮しりょが進むと、先きに述べたる宗教のおしうる趣旨にかのうてきて、深沈しんちん重厚じゅうこう磊落らいらく雄豪ゆうごうしつとの撞着どうちゃくが消えてくる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
要するにチベット婦人は自家撞着どうちゃくの性質を一身に備えた、奇妙奇態な婦人であると思われたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
またかつて兆民居士ちょうみんこじを評して、あきらめる事を知つて居るが、あきらめるより以上のことを知らぬと言つた事と撞着どうちゃくして居るやうだが、どういふものかといふ質問である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いまになってみるとこの一節は矛盾と撞着どうちゃくとでかたまったものとしか見えないわけだ。
彼女がついに精神の破綻はたんを来すに至った更に大きな原因は何といってもその猛烈な芸術精進と、私への純真な愛に基く日常生活の営みとの間に起る矛盾撞着どうちゃくの悩みであったであろう。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そうしてそういう人間が、全く気任せに自由に「そこはかとなく」「あやしう」「ものぐるほしく」矛盾も撞着どうちゃくも頓着しないで書いているところに、この随筆集の価値があるであろう。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしこれは片づける事自身に対する反感ではなくて、人生の矛盾や撞着どうちゃくをあまりに手軽に考える事に対する反感である。先生は望ましくない種々の事実のどうにもできない根強さを見た。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
考えても考えきれぬような異様な撞着どうちゃくではあるけれども、そうして、人魚に伝説の衣を着せ、美しい霧一重に隔てて眺めはじめてからというものは、どうしたことかそれまで軽い愛着を覚えていた
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そうさ、もうゴール・インだって気持ちでぼくたちは張り切って生きてたんだ。ところが、そのかんじんのゴールが終戦でどこかに消えちゃってさ。迷惑な話さ。生きるために生きるなんて、こりゃ撞着どうちゃくだよ」
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
我々が世界の形成要素として個物的なればなるほど、矛盾的自己同一的に自己自身を形成する唯一なる世界に撞着どうちゃくするのである。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
かつ、幽とは不可見のいいならずや。しかもこれに形体ありとせば、論理上撞着どうちゃくのはなはだしきものといわざるべからず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と言ってしまっただけでは、地理と方針に、多少の無理があり、撞着どうちゃくがあることを、不審とする人もありましょう。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
前後撞着どうちゃく、意気沮喪そそう逍遙しょうよう、頭の中だけの恋愛、そんなことに時間と力とを無駄むだに費やしては、数か月の努力勉強をもたえず駄目にしてしまっていた。
もって破壊した後でなければ、新しき真理の建設が不可能ということになる。天啓そのものに撞着どうちゃくはない。ただ真理を包める人為的附加物じんいてきふかぶつは、これを除去せねばならぬのである。
その行動の矛盾撞着どうちゃくしている有様が、ちょうど岩形氏の死状の矛盾撞着と相対照し合っているかのように見えるところを見ると、その間には何かしら共通の秘密が伏在していはしまいか。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
墳墓に対する絶えざる思念は生ける者に適したものであることを、前に述べた事がらと撞着どうちゃくなしに吾人は信ずるのである。この点については、牧師と哲学者とは一致する。死ななければならない。
この不可解しごくな転換は、まったく考えても、考えきれぬほど異様な撞着どうちゃくでございましょう。現実私でさえも、その二つとも、自然の本性に反した不倫な欲求であることは、ようく存じております。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いと笑うべき撞着どうちゃくに御座候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かつ、幽とは不可見のいいならずや。しかもこれに形体ありとせば、論理上撞着どうちゃくのはなはだしきものといわざるべからず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
我々の自己が何処までも徹底的に否定的自覚の立場に立つ時、そこに内在即超越、超越即内在の絶対矛盾的自己同一の原理に撞着どうちゃくせなければならない。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
理屈癖の民衆にも、彼らを救う一つの長所——矛盾撞着どうちゃく——があることを、クリストフは知らなかった。
存在ということの欠けた最高完全者というものを考えることは、谷のない山を考える如く自己撞着どうちゃくである。故に神は存在する。而して完全無欠なる神は欺かない。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
それら二つの会話は、しばしばたがいに撞着どうちゃくする。精神が慣習の通貨をたがいにかわしてる一方に、肉体は欲望や怨恨えんこんを口にし、あるいはさらに多く、好奇や倦怠けんたい嫌悪けんおを口にしている。
よって、俗に幽霊を見たりというは、自家撞着どうちゃくのはなはだしきものである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
かかる実在の立場から無限の当為が出て来るのである。我々の自己が唯一的に個となればなるほど、自己自身を限定する事として、絶対の当為に撞着どうちゃくするのである。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)