摺箔すりはく)” の例文
そのすこし前までは白菊を摺箔すりはくにした上衣を着ていたが、今はそれを脱いでただがまの薄綿が透いて見えるくず衣物きものばかりでいる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
玉のかんざしかつら女飾髻おんなばさら、鬘帯、摺箔すりはく縫箔、後で着けます長絹ちょうけんなんぞも、私が小児こどものうち、一度博物館で陳列した事がありますがね、今でも目に着いています。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて近づくを見れば、その一騎は、甲冑かっちゅうの武者ではなかった。しゃ摺箔すりはくの小袖、藤色の天正裃てんしょうかみしも、手綱までよそおいをこらし、目を奪うような姿の若者であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この場面の装置は舞台正面は樫の腰板パネルをそのままむきだしにし、その両端に対照的についてる大きな窓を隠すために、デンマーク王家の金の摺箔すりはくの紋章をつけた
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うしろからかざしかけた大傘の紋処はいわずと知れた金丸長者の抱茗荷だきみょうがと知る人ぞ知る。鼈甲べっこうずくめの櫛、かんざしに後光のす玉のかんばせ、柳の眉。綴錦つづれにしき裲襠うちかけに銀の六花むつばな摺箔すりはく。五葉の松の縫いつぶし。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当然、義父の花夜叉は、たれのたねかを、知らずにはおかない。——初めは、藤夜叉もかくしぬいたが、彼女が、嬰児あかごに持たせた地蔵菩薩の守り袋は、足利織の摺箔すりはくに足利家の紋を浮文様うきもんようとしてあった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)