たた)” の例文
誰かぱちぱちと手をたたいたものがあった。すると、今までペンを走らしていた人たちまでそのペンをいて一斉いっせいに彼の方を見た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
僕は、陳君の奇計に、おもわず手をたたいた。が、考えてみると、この奇計も、やっぱり、少年だけの智慧ちえしかないとおもった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
するりと槍を取直し、肩に立懸けつえつきつつ、前にかがみて、突出つきいだせる胸のくれない襯衣しゃつ花やかに、右手めてに押広げてたたいたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがいがみ合いはじめたら、そなたはまず、側で手をたたいていてもよいということになるであろう——そなたが、最後の刺止とどめだけ刺してやればいい
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それで、夜になりますと、橋の上に立って、手をポンポンポンと三つたたきました。例のおじいさんが、どこからかひょっこり出て来ました。五右衛門は頼みました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
うやうやしくそれを捧げる真似をしたら皆が喜んでブラボーを叫んだり手とたたいたりした。
追憶の冬夜 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それを聞きつけた気の利いた用心深い私服巡査の一人が、近寄ってバチバチと手をたたいた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
幕の後から覗く百姓の群もあれば、さくの上に登って見ている子供も有ました。手をたたく音がしずまって一時しんとしたかと思うと、やがて凛々りりしい能く徹る声で、誰やらが演説を始める。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
部屋の片隅の卓にって、醜い小男と肩を並べて、あなた様のお話に耳を澄まして、誰よりも先に手をたたき、誰よりも先に喝采かっさいをし、誰よりも先に賛成をする、一人の女がありました事を。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二匹の悲哀トリステサが飼われているとも知らず、妻と一緒になって犬のぶざまな歩みに手をたたき指ざして可笑おかしがり、しかも自分の悲哀トリステサには気が付かないで、犬の悲哀トリステサばかりを笑っていた自分の迂愚さ加減が
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「やあ、来た来た、ロッペン団長。」と二、三人が手をたたいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
吃りの漁夫が、一寸ちょっと高い処に上った。皆は手をたたいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ファヴォリットは彼らが出て行くのを見て手をたたいた。
イヴォンヌさんが、手をたたきながら踊りあがった。
手をたたいて土蜘蛛の笑う声がしています。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女は酒を命じるために手をたたいた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
諸君が手をたたいて喝采かっさいしました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
はたはたとお珊が手をたたくと、かねて心得さしてあったろう。廊下の障子の開く音して、すらすらと足袋摺たびずれに、一間を過ぎて、またしずかにこのふすまを開けて
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしにまた用が出来たら、ポンポンポンと三つ手をたたくがよい。そうすればいつでも出て来てやる」
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
キャラコさんが、手をたたく。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「手をたたくかな。」と庄亮。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「それ目潰めつぶし。」とお丹の指揮さしず手空てあきの奴等、一足先に駈出かけいだして、派出所の前にずらりと並び、臆面おくめんもなく一斉に尾籠びろうの振舞、さはせぬ奴は背後うしろより手をたたきて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度は五右衛門も、まったく閉口へいこうしてしまいました。夜になると、痛みと寒さとで今にも死ぬような思いをしながら、橋の上まではい出してきまして、ポンポンポンと手を三度たたきました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と、誰かが手をたたいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
はるかの空で雲が動くように、大浪の間に帆が一ツ横になって見える時分から、爪立つものやら、乗り出すものやら、やあ、人が見える、と手をたたいて嬉しがるッていう処でさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思わず軽く手をたたくと、と寄せた、刻んだような美しい鼻を、男の肩に、ひたと着けて
俯していらえなき内儀のうなじを、出刃にてぺたぺたとたたけり。内儀は魂魄たましいも身に添わず
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゃんしゃんと手をたたいて、賭博ばくちに勝ったものも、負けたものも、飲んだ酒と差引いて、誰も損はござりませぬ。い機嫌のそそり節、尻までまくったすねの向く方へ、ぞろぞろと散ったげにござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とこざっぱりした前かけのひざたたき、近寄って声をひそ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翁が、ふたふたと手をたたいて、笑い、笑い
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しのぶ手をたたきてげながら言う。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村越 (手をたたく。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)