打扮いでたち)” の例文
西宮は三十二三歳で、むッくりと肉づいた愛嬌あいきょうのある丸顔。結城紬ゆうきつむぎの小袖に同じ羽織という打扮いでたちで、どことなく商人らしくも見える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
和蘭風な打扮いでたちで、尖柱戯をして居るのに邂逅であつたことがある、かれもある夏の昼過に、たまを転ばすやうな音を聞いたことがあるといひます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
目科の今日の打扮いでたちいつもより遙か立派にして殊に時計其他の持物も殆ど贅沢の限りを尽しう見ても衣服蕩楽なりどうらく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ブツブツ言いながら、先生はついに諸肌脱もろはだぬぎになって、向う鉢巻をはじめました。その打扮いでたちでまた片っぱしから療治や差図にかかって、大汗を流しながら
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この人々は謝肉祭カルナワレの頃假粧けはひして街頭を彷徨さまよひたりしが、こゝにさへ假粧して集ひしこそ可笑しけれ。推するにその打扮いでたちは軍隊の號衣ウニフオルメに擬したるものならん。
実に美々びびしい打扮いでたちでこの時ばかりはいかに不潔なチベットの者でもその前夜から湯を沸かして身体をきます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見ると、文治は痩衰やせおとろえてひげぼう/\、葬式とむらい打扮いでたちにて、かみしもこそ着ませぬが、昔に変らぬ黒の紋付、これは流罪中かみへお取上げになっていた衣類でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その打扮いでたちはどんなだか。身に着いたのは浅紺に濃茶の入ッた具足でおどしもよほど古びて見えるが、ところどころに残ッている血のあとが持主の軍馴いくさなれたのを証拠立てている。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
それで、大火となると、町家の騒ぎはいうまでもないが、諸侯だいみょうの手からも八方から御使番おつかいばんというものが、馬上で、例の火事頭巾ずきんを冠り、凜々りりしい打扮いでたちで押し出しました。
北村の人に聞けども北村の人も知らず、南村の人に聞けども南村の人も知らず。さりとて本場をめる関角力といふ風采ふうさいにもあらねば、通り掛りの武者修行といふ打扮いでたちにもあらざりけり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いずれも自分の親としてよい年輩の人々で、そのうちの一人は手製の東坡巾とうばきんといったようなものをかぶって、鼠紬ねずみつむぎ道行振みちゆきぶりているという打扮いでたちだから、だれが見ても漢詩の一つも作る人である。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山越えに、××国の方へわたろうとしている学生は、紫だった朝雲が、まだやまに消えうせぬを、軽々しい打扮いでたちをして、拵えてもらった皮包の弁当をポケットへ入れて、ふらりと立っていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
十字街妓つじぎみ打扮いでたちて、夜毎に浜辺に立つものから、客をひくべきためのみならず、その懐にものあるをば、媾合の折、唇をまじへて、舌を噛みきって殺し、屍骸を海に棄つるに、媼内おばない妓有ぎうになりて
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たづさ曉寅刻あけなゝつに皆門口へ來て親方御支度はよしかと大聲に云ば水田屋の家内かないは立出是は御苦勞々々々今旦那だんなは御出なさると云中藤八出來りしが先其打扮いでたち紺縞こんじまの上田のあはせ紺紬こんつむぎ盲縞めくらじまの羽織こひ納戸なんどの半合羽を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
打扮いでたちは和蘭陀の古代の風俗(帯で腰を約した木綿衣)袴は幾重も穿き、外の分は濶くて、両側は各一列のぼたんで留めてあります。膝の処には紐が附いて居ります。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
「何でおじゃるとは平太の刀禰、むすめ、忍藻の打扮いでたちじゃ。今もその口から仰せられた」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
見たところでは頭の先から足のうらまでつい打扮いでたちでありましたけれども、これは姉妹でも友達でもなく、主従の関係にあるらしいことは、今のその挨拶の仕様でよくわかるのであります。
アプルツチイよりも、大澤たいたくよりも、おほよそ近きほとりの民悉くつどひ來て、おの/\古風を存じたる打扮いでたちしたれば、その入り亂れたるを見るときは、餘所よその國にはあるまじき奇觀なるべし。
浜屋はお島に買せた色々の東京土産みやげなどを提げこんで、パナマを前のめりにかぶり、お島が買ってくれた草履をはいて、軽い打扮いでたちで汽車に乗ったのであったが、お島も絽縮緬ろちりめんの羽織などを着込んで
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が味方の手綱には大殿(義貞よしさだ)が仰せられたまま金鏈かなぐさりが縫い込まれてあッたので手綱を敵に切り離される掛念けねんはなかッた。その時の二の大将(義興)の打扮いでたち目覚めざましい物でおじゃッたぞ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
網代笠あじろがさを深くかぶって袈裟文庫けさぶんこをかけて、草鞋穿わらじばきで、錫杖しゃくじょうという打扮いでたちです。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒須もりゅうとした羽織はかま黒足袋くろたびという打扮いでたちで、そう言えばどこか院外団の親分らしい風姿で立ち会ったが、庸三にしてみれば、前の記事を塗りつぶすのは、そうたやすいことでもなかったし
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この朝、駒井能登守の門内からこの雪をおかして一隊の人が外へ出ました。一隊の人といっては少し大袈裟おおげさかも知れないが、その打扮いでたちの尋常でないことを見れば、一隊の人と言いたくなるのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)