意久地いくじ)” の例文
何よりも寒さに対しては意久地いくじのないEはどんな格好をして座つてゐるだらう。龍子はしきりに、此度はEの体が心配になり出した。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
私達は随分、ロスケは意久地いくじないなぁと思った。銃も剣もとりあげられて、それでニコニコしている。私は何だか不思議に思えた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
しかるに中には妻を働かせるのをなんだか夫自身に意久地いくじがないかに思ったり、思われたりするのを非常に恥辱として反対するものもあり
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
今や僕の力は全く悪運の鬼にひしがれて了いました。自殺の力もなく、自滅を待つほどの意久地いくじのないものと成りはてて居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あんな事で、もう、わかれてしまうなんて、あの子も、意久地いくじが無いね。ちょっと、べっぴんさんじゃないか。あのくらいの器量なら、……」
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
「私が意久地いくじが無いからなんですよ。阿父が亡くなつたからツて、此様にこまらなくツても可い譯なんですがね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ワハハハハハ。いつも意久地いくじの無い奴だ。じゃあヒョロ子、お前はどうしたんだ。やっぱり腰が抜けたのか」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
「何で足ばかり、ばたばたやってるんだ。大丈夫だから、うんと踏ん張って立ちねえな。意久地いくじのねえ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人並に血気はさかんだったから、我より先に生れた者が、十年二十年世の塩を踏むと、百人が九十九人まで、みんなじめじめと所帯染しょたいじみて了うのを見て、意久地いくじの無い奴等だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
意久地いくじなしめ、痩せてやがら。ホントに手前はいつまでも強い犬でいねえと、おいらが承知しねえぞ。遠吠え専門の痩犬は何万匹あろうとも、ほんとうに強い犬というのを
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もう何にもいらない。久振りで飲むとカラ意久地いくじがない。帰れなくなると大変だ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あの子は駄目よ。意久地いくじが無くって。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それから少し蜘蹰ちちゅうしていると、あれは意久地いくじがないといい、たまたま少しやり損なうとぐにこれを責める。なかなかむずかしいものである。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一、夫婦喧嘩のときには、私は出来るだけ何時でも、強情を張ります、男はさう云ふ場合には意久地いくじのないものです。
その実案外意久地いくじのない男かしらと思う場合もあるが、それは一文なしになって困りぬいた時などで、そう思うとなさけなくなるからなるべくそれは自分で打消していたのである。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
或は苦労が上辷うわすべりをして心にみないように、何時迄いつまで稚気おさなぎの失せぬお坊さんだちの人もあるが、大抵は皆私のように苦労にげて、年よりは老込んで、意久地いくじなく所帯染しょたいじみて了い
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのまま意久地いくじなくその場に蹲踞しゃがんでしまうと、どうしても立上ることができない。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
身体中にとげを生やしたり、近まわりの者に色や形を似通わせたり、甲羅こうらかぶったり毒を吹いたりしているが、あんな片輪かたわじみた、卑怯な、意久地いくじのない真似をしなくとも、もっと正しい、とらわれない
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
果して自殺の真の原因が新聞紙の伝へるやうに目的をはゞまれたと云ふことゝすれば松子と云ふ女は小心な意久地いくじのない女だと云はなければならない。
しかし、しまいには愛想あいそが尽きるだろう。あんまり男に意久地いくじがなさすぎると……。ねえ、玉ちゃん。あの時分、あんたが家にいる時分、何かそんな話をした事はなかったかね。うちのお千代がさ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何人も犯すことの出来ない体や精神をもつてゐながらそれで他人の都合や他人のためにその体や精神をむざ/\とまかしてしまふのは意久地いくじがないと云ふよりはむしろ生れた
従妹に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「今話したじゃねえか。日魯にちろの大戦争よ。満洲まんしゅうじゃねえか。」と言って、爺さんは禿頭はげあたまから滑り落ちそうになる鉢巻の手拭を締直しめなおしたが、「ええと。何年前だったろう。おれももう意久地いくじがねえや。」
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女はその自身の忍従に対して染々しみじみとひとりで涙ぐみながら、その気持をいとほしんでゐることもあり、また或る時は、自分のその意久地いくじなしに焦れてゐることもあつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
彼女自身で云ふ通りに、私は彼女を臆病だとも、卑怯だとも、意久地いくじなしだとも思ひます。
背負ひ切れぬ重荷 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
本当に何時もながら自分の意久地いくじなしが情けなくなつてまゐります。
阿呆あほう、ぐず、のろま、意久地いくじなしは云ふに及ばず、気取り屋、おしやべり、臆病、卑怯、未練、ケチンボ、コセツキ屋、悧巧者、ひとりよがり、逆上家、やきもち屋、愚痴こぼし、お世辞屋、偽善者
サニンの態度 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
考へて見ますと、私も本当に意久地いくじがなかつたのですね。
そして、私はさう云ふ人を意久地いくじなしと云ひます。
内気な娘とお転婆娘 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)