しるし)” の例文
事によつたら、骸骨か、何か人生のはかなさを示すしるしがなくては宴会が出来なかつた、古代埃及人程ひどく凝り性なのかもしれない。
結局翼なくても飛ぶと讃えてこれを省いたと、蛇や蜥蜴に似ながら飛行自在なるしるしに翼を添えたと趣は異にして、その意は一なりだ。
ひたいの真中の、永い間掻き消されていた、活動的な鋭い知能のしるしが、彼にかぶさっていた黒い霧を押し分けてだんだんと現れて来た。
我はベアトリーチェにむかへり、この時淑女わが語らざるにはやくも聞きて、我に一のしるしを與へ、わが願ひの翼を伸ばしき 七〇—七二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから村で水莽草の毒に中る者のあった時には、御馳走を供えて祝を祭るとしるしがあった。そして、十年あまりして祝の母が亡くなった。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
洗ったように綺麗で、砂一つついていない。古い物なら腐ってもいようし、色も少しは変っていよう。あらなら新でまたそのしるしがあるはず。
……炭火毒にあたって死んだしるしはね、身体中が薄桃色になって、これが死んだとは思えないようになっているものなんですぜ。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼れはこの小さなしるしにも自然の力の大きさと強さとを感受した。而して彼れは今更のやうに立停つてあたりを見まはした。
幻想 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
そもそも電車の切符は、片道七銭也の受取であるか、それとも電車に乗る権利を与えたことを認めた一つのしるしであるか、之が君等に判然とわかるか。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
僕がまだ子供で彗星を見た時分には、田舎ゐなかの事でまだまだ開けなかつたものだから、村の人間がしきりと箒星はうきぼしは凶事のしるしだと云つて心配するのさ。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
こゝにも亦た因果の道法を隠微のうちに示顕して至妙に達せり。月水の絶たるは、仙童にふまでもなく懐胎のしるしなり。
ところが案のじょう、このとおりしるしがあった! ロージャ、ロージャ、お前どこへ行くの? どこか旅にでも行くの?
女は自分の体が外の庭に出て腰を掛けていて、その顔が青ざめ、目が泣きれているのを見るように思う。しかしこの悲哀のしるしはただ上辺ばかりである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
正しき美は自然への信頼のしるしである。ちょうど一切を神に委ねる時、心の平和が契られるのと同じである。真に何事かをなし得るのはただ自然のみである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ダルマヌタはユダヤ的環境の地方であったとみえ、早速パリサイ人が出てイエスに議論を吹きかけ、かつ彼を試みて天よりのしるしを求めました(八の一一)。
別れてゆく沢田の未来にとつて何となく幸運のしるしのやうに思はれたからである。神様が沢田と共について行つて下さるやうな安心を、ふとその時道夫は得た。
喜びと悲しみの熱涙 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
望みは遠し、されど光のごとく明るし。熱血、身うちにおどる、これわが健康のしるしならずや。みな君がたまものなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
中世の社会組織においては、いわゆる在名の使用は、ある領地を持っていることのしるしであった。従って単純なる土民は、苗字というものはなかったはずである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さて、三種の神器は君主のしるしでござります。君主の還都なくば、神器も又還都あるべからずと思います。
ものうい、爛れた眼をして、灰色の毛を垂らしてゐる。そして犬の達し得る、極度の老年に達したと云ふあらゆるしるしが現れてゐる。わしは犬をやさしく叩いてやつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
辛うじて文明の皮をかぶってる自然の大なる野蛮な生活の、普通の人の眼にはつかないほどのわずかなしるしを見ただけで、その自然の生活全部が彼の眼に映じてきた。
マッセナは敵兵増加のしるしに不安を抱き、同日は狼狽してこのまま止まるは危険な旨を具申している。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
そして、この「必然と自由の等置とうち」こそ、彼らが天才であることのしるしでなくてなんであろうか?
僕は独逸文学のことは好く知らずにしまうが、その中には日出写生のいい文章は幾つかあるであろう。山上の美しい日の出は、いわば劫初ごうしょの気持であり、開運のしるしでもある。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
千葉を遁げる時からたしなんだ、いざという時の二品ふたしなを添えて、何ですか、三題話のようですが、すごいでしょう。……事実なんです。貞操のしるしと、女の生命とを預けるんだ。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○同年閏十月十九日大政□臣をおくらる。しかれば此 御神の御位は正一位大政□臣としるべし。後年こうねんしば/\神灵しんれい赫々かく/\たるしるしありしによりて、 天満宮、或 自在天神の贈称さうしようあり。
深遠な推論は眩迷げんめいをきたすものである。司教が神秘な考察のうちに頭をつき込んだしるしは何もない。使徒たる者は大胆なるもいい、しかし司教たるものは小心でなければならない。
……固疾にからまるかなしい夢をみたので、彼の心は茫然ぼうぜんとしていたが、くるんでいる毛布の妙に生暖かいのがまた雨の近いしるしのように想えた。暫くすると、また明け方の夢が現れた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ふり返ると、暗い闇を通して、そこあたりと覚しきところにはたして火光かこうがあざやかに照って見えた。山火事! 赤城の山火事! 関東平野に寒い寒い冬が来たというしるしであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あらぬかをこころみしに、かつてその人の余所よそに泣けるしるしもあらざりければ、さすがに恨は忘られしかと、それには心安きにつけて、諸共もろともに今は我をも思はでや、さては何処いづこ如何いかにしてなど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
蒋介石しょうかいせき派の激化と、東支鉄にからんだ露支ロシ間の葛藤、南京政府の幣制の改革にたいする商人の思惑は、対支商談におけるワシントン政府の経済政策が、帝国主義戦争の一つのしるしとして
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
フアン、ヰンクル夫人の名を聞く度、リツプは相替らず頭を掉り、肩を聳かし、空目そらめを遣ひますが、この身振は彼の自分の運命を諦めたしるしとも、又た圧制を脱れた喜の徴とも取られませう。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
私は彼の顏に幸福のしるしを讀まうと見上げた。それは熱し、輝いてゐた。
或東かぜの強い夜、(それは僕には善いしるしだった)僕は地下室を抜けて往来へ出、或老人を尋ねることにした。彼は或聖書会社の屋根裏にたった一人小使いをしながら、祈祷や読書に精進していた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
只何だかわからないというしるしに、頭を軽く左右に振って見せた。けれども青眼爺は何だか心配でたまらぬように、じっと藍丸王の顔を見つめていた。そうして重ねて一層叮嚀な言葉で恐る恐る尋ねた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
持てるヂュウスのしるしとし畏怖にうたれて立ちとまる。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
「いや、毒なら身體にしるしがある。お前も『檢屍辨覽』でも讀むが宜い、——唇にも、舌にも、眼瞼まぶたにも、皮膚はだにも何んの變化かはりのない毒はない筈だ。本道(内科醫)が二人で立會つて診て、何んの變りもないと言つてゐる」
ああただめよ、くるすのあいしるしを。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
歓迎いたすしるしではございますまいか。
異性のしるしは髮の毛にのみめだちぬ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
シパといひならふ舌もなほその數これに及びがたし、若しこの事のしるしあかしをほしと思はゞたゞ慾深き我等の胸を思ひいづべし 六一—六三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
格別これといって情愛のしるしを見せはしなかったが、始終やわらかい目色で自分たちを見守ってくれていた父のほうだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しるしと奇蹟とを行なって人々を惑わし、なしうべくば、真の選民たる汝らをも惑わそうとするだろう。
これによればツクシはもと標木の義であったものが、転じて広く境のしるしを意味するに至ったらしい。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
古スウェーデンでもキリスト教を奉ずる王に強いて馬肉を食わせ、その脱教のしるしとしたという。
○同年閏十月十九日大政□臣をおくらる。しかれば此 御神の御位は正一位大政□臣としるべし。後年こうねんしば/\神灵しんれい赫々かく/\たるしるしありしによりて、 天満宮、或 自在天神の贈称さうしようあり。
「マーメイド・タバンの酌婦ウエートレスには、お前から俺の言葉を伝えておいてくれ——玉虫を見つけたら旅先から届けるからに、俺の君に寄する複雑な愛のしるしとして胸飾りにしてくれ——と。」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
天井から「えびす」または「大黒だいこく」と呼ぶ欅作けやきづくりの大きな釣手つりてを下げ、それに自在じざいを掛けます。そのかぎの彫りに実に見事なものがあります。好んで水にちなんだものや、吉祥のしるしを選びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
或東かぜの強い夜、(それは僕には善いしるしだつた。)僕は地下室を抜けて往来へ出、或老人を尋ねることにした。彼は或聖書会社の屋根裏にたつた一人小使ひをしながら、祈祷や読書に精進しやうじんしてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それはアメリカ資本主義に崩壊のしるしがあらわれたことであった。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)