御殿場ごてんば)” の例文
キャラコさんは、ここから御殿場ごてんばのほうへくだり、茜さんは、仙石原せんごくばらのほうへおりて、それから東京へ職業しごとをさがしに行くのである。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
で、貞之助が先に上京し、幸子は二日後から行って浜屋で落ち合い、新宿から立って帰途は御殿場ごてんばへ出ることにした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御殿場ごてんばにて乗客更に増したる窮屈さ、こうなれば日の照らぬがせめてもの仕合せなり。小山おやま山北やまきたも近づけば道は次第上りとなりて渓流脚下に遠く音あり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
S家のお母さまなら、疎開などではなしに、とうから御殿場ごてんばの別荘にお住みだつたはずではありませんか。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
未明に鉄舟寺を辞すると、まず竜華寺りゅうげじの日の出の富士ふじあおぎ、三保みほ松原まつばらで海気を吸い、清水駅から汽車で御殿場ごてんばに出て、富士の裾野すそのを山中湖畔こはんまでバスを走らせた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
長尾峠の秋の一日は、あいにくの雲で富士は見えず、その上御殿場ごてんばへ下る途中、猛雨に襲われた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
畜生ちくしやうひとしと云己等如き恩もなさけも知らぬいぬおとりし者はわすれしやも知れず某しはもと相摸さがみの國御殿場ごてんば村の百姓條七がなれのはてなり抑其方は勘當かんだううけし身にて一宿しゆくとまる家さへなきを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
行ったのは着後もないうちの事である。その頃は方角もよく分らんし、地理などはもとより知らん。まるで御殿場ごてんばうさぎが急に日本橋の真中まんなかほうり出されたような心持ちであった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのふもとを汽車が通っていることは、丁度ちょうど富士山のすそを、御殿場ごてんばから佐野(今は「裾野すその」駅)、三島、沼津と、まわって行くようで、しかも東海道が古くからの宿駅であるように、シャスタ山麓さんろくの村落も
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
いっしょに来るべきはずでつい乗りおくれた東洋城とうようじょうの電報を汽車中で受け取って、その意のごとくに御殿場ごてんばで一時間ほど待ち合せていたに、余は不用になった一枚の切符代を割り戻して貰うために
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)