ゆづる)” の例文
星は次第に増す。柔らかにゆらぐ海はあわそそがず。男は女の手をる。鳴りやまぬゆづるを握った心地ここちである。……
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人公の心の苦悶くもんに對する作者の感情輸入アインヒウルングふかさは、張り切つたゆづるのやうに緊張きんぢやうした表現へうげんと相俟つて、作の缺點けつてんかんじる前に、それに對して感嘆かんたんしてしまひます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
と、ゆづるをそろえて“横矢”の矢ぶすまを浴びせて来たし、また船上の海兵もただちに、その舷々げんげんを跳び下りて来て、直接、新田勢の前進をはばめにかかッて来たものだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここにその將軍既に詐りをけて、弓をはづし、つはものを藏めつ。ここに頂髮たぎふさの中よりけのゆづるり出で更に張りて追ひ撃つ。かれ逢坂あふさかに逃げ退きて、き立ちてまた戰ふ。
朝夕みゝにせしものは名ある武士が先陣拔懸ぬけがけのほまれれある功名談こうみやうばなしにあらざれば、弓箭甲冑の故實こじつもとどりれし幼時よりつるぎの光、ゆづるの響の裡に人と爲りて、浮きたる世の雜事ざれごとは刀のつかの塵程も知らず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
つぎつぎと矢継早にぞ引く弓のゆづるは鳴りぬしづけきまでに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わざとらずがほつくりながらもくれなゐわれしらずおほ袖屏風そでびやうぶにいとゞこゝろのうちあらはれて今更いまさらきたることもありひとみぬひまの手習てならひ松澤まつざはたかとかいてまた塗隱ぬりかくすあどけなさ利發りはつえても未通女氣おぼこぎなりおなこゝろ芳之助よしのすけごとしとくちにはいへど歳月としつきはわがためゆづるたゆみしやうにおぼえてかしらすほどのまどろかしさよ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
落ちかかる黄金こがねゆづる
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)