年増盛としまざか)” の例文
胴がくびれているだけ腰の下から立膝たてひざしたもものあたりの肉付が一層目に立って年増盛としまざかりの女の重くるしい誘惑を感じさせる。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかもそれは年増盛としまざかりの水気の多い女の人、この辺ではあまり見かけない肌合の、小またの切れ上った女の人が余念なく自分の方を見ていたから
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なし恩をせ置思ひを遂んと心の中に目算もくさんなし忽ちおこ煩惱ぼんなういぬよりもなほ眼尻めじりを下げお光殿にも可愛かあいさうにわかい身そらで後家になられ年増盛としまざかりををしい物と戯氣おどけながら御子息道之助殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たまのようだといわれたその肌は、年増盛としまざかりの愈〻いよいよえて、わけてもお旗本の側室そくしつとなった身は、どこか昔と違う、お屋敷風の品さえそなわって、あたか菊之丞きくのじょう濡衣ぬれぎぬを見るような凄艶せいえんさがあふれていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
警察官をしてはそぞろに嫌疑のまなこを鋭くさせるような国貞振くにさだぶりの年増盛としまざかりが、まめまめしく台所に働いている姿は勝手口の破れた水障子、引窓の綱、七輪しちりん水瓶みずがめかまど
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あのお内儀かみさんの元気なことは——お湯に入っているところを見ますと、肉づきはお相撲さんのようで、色艶いろつや年増盛としまざかりのようで、それで、もう五十の坂を越しているのですから驚きます。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つとめて眼に立たないようにはしているけれど、こうして男ばかりの乗客の中へ、息をはずませて乗り込んでみると、誰もそのあぶらの乗った年増盛としまざかりに眼をかれないわけにはゆかないようです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この連中にとっては、回向院境内の仮小屋の棟の高さがことのほかに目ざわりであります——そういう者の存在を知って知り抜いている女軽業の親方お角さんは、その真白な年増盛としまざかりの諸肌もろはだをぬいで
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)