屋賃やちん)” の例文
すべて社会改良家といふものは、猫の餌を見ては、直ぐその生活費を考へ、つばめの巣を見ては、屋賃やちんを訊かないではられない、世話好きの人達である。
そのほか迎年げいねん支度したくとしては、小殿原ごまめつて、煑染にしめ重詰ぢゆうづめにするくらゐなものであつた。大晦日おほみそかつて、宗助そうすけ挨拶あいさつかた/″\屋賃やちんつて、坂井さかゐいへつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ことに便所は座敷のわきの細い濡椽ぬれえん伝いに母家おもやと離れている様な具合、当人もすこぶる気に入ったのですぐ家主やぬしうちへ行って相談してみると、屋賃やちんも思ったより安値やすいから非常に喜んで
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
一體いつたい三間みまばかりの棟割長屋むねわりながやに、八疊はちでふも、京間きやうま廣々ひろ/″\として、はしら唐草彫からくさぼりくぎかくしなどがあらうとふ、書院しよゐんづくりの一座敷ひとざしきを、無理むり附着つきつけて、屋賃やちんをおやしきなみにしたのであるから、天井てんじやうたかいが
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さうして屋賃やちんでもけてもらことにしやう」とこたへたまゝ宗助そうすけはついに坂井さかゐへはかなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なるものは主人にあらず、吾輩にあらず、家主やぬしの伝兵衛である。いないかな、いないかな、下駄屋はいないかなと桐の方で催促しているのに知らんかおをして屋賃やちんばかり取り立てにくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)