女菩薩にょぼさつ)” の例文
鳥部野とりべの一片のけむりとなって御法みのりの風に舞い扇、極楽に歌舞の女菩薩にょぼさつ一員いちにん増したる事疑いなしと様子知りたる和尚様おしょうさま随喜の涙をおとされし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると沙門はさも満足そうに、自分も悠然と立ち上って、あの女菩薩にょぼさつ画像えすがたを親子のもののかしらの上に、日を蔽う如くさしかざすと
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あたりをさぐって、そとにでれば、夜は四こうやみながら、空には、女菩薩にょぼさつたちの御瞳みひとみにもる、うるわしい春の星が、またたいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美術の淵源地えんげんち、荘厳の廚子ずしから影向ようごうした、女菩薩にょぼさつとは心得ず、ただ雷の本場と心得、ごろごろさん、ごろさんと、以来かのおんなを渾名あだなした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藪原の駅路うまやじは、この時刻から、かえって賑かになるのであった。往く人来る人、それらの人は、いずれも長者の門を潜って、女菩薩にょぼさつを拝もうとするのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宗右衛門が寺へ来てからきに彼は一つの困難に突き当つた。納所部屋から庫裡くりへ続くところの一間の壁の壁画に、いつ誰の手に成つたとも知れぬ女菩薩にょぼさつの画像があつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
外見そとみ女菩薩にょぼさつ内心ないしん女夜叉にょやしゃに、突如湧いた仏ごころ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕はまだ日本にいた時、やはり三人の檀那だんなと共に、一人の芸者を共有したことがあった。その芸者にくらべれば、ダアワは何という女菩薩にょぼさつであろう。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父は六めんの神よりも力づよきはしら——、母は情体愛語じょうたいあいご女菩薩にょぼさつよりもやさしいまもり——その二つのものが人間にははしの下に生まれる子にもあるのを知った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なる程、われ正直にすぎおろかなりし、おたつ女菩薩にょぼさつと思いしは第一のあやまり、折疵おれきずを隠して刀にはを彫るものあり、根性が腐って虚言うそ美しく、田原がもって来た手紙にも
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼の長い一生に一度も生きた女性についやさなかつた恋の魅惑を、この老来のしかうした悲惨な境遇の今、手にもとられず、声も聞き得ぬ一片の画像の女菩薩にょぼさつに徴されようとは。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
女菩薩にょぼさつ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女菩薩にょぼさつはた、墨染の法衣ころも、それから十文字の怪しい護符、一目見て私の甥は、それが例の摩利信乃法師だと申す事に、気がついたそうでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書物はよめるかえ、消息往来庭訓ていきんまでは習ったか、アヽ嬉しいぞ好々よしよし、学問も良い師匠をつけてさせようと、慈愛はつきぬ長物語り、さてこそ珠運が望み通り、この女菩薩にょぼさつ果報めでたくなり玉いしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼が壁画の前にさしかゝるやついに彼は女菩薩にょぼさつほおを感じ初めた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「いえ、摩利支天ならよろしゅうございますが、その教の本尊は、見慣れぬ女菩薩にょぼさつの姿じゃと申す事でございます。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ちらりと、——見えたと思う瞬間には、もう見えなくなったのですが、一つにはそのためもあったのでしょう、わたしにはあの女の顔が、女菩薩にょぼさつのように見えたのです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)