四隣しりん)” の例文
そして今や、白面はくめん二十六歳の青年にして、すでに上杉家随一の器量者きりょうものと、四隣しりんに存在を知られている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人がもし後架から四隣しりんに響く大音を揚げて怒鳴りつければ敵は周章あわてる気色けしきもなく悠然ゆうぜんと根拠地へ引きあげる。この軍略を用いられると主人ははなはだ困却する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪は雪簾ゆきだれにあたりてさら/\とおとのふのみ、四隣しりんなければせきとしてこゑなくやゝ時もうつりけり。
既にして間近にきたれり、あたかもこの時四隣しりん寂寞せきばく気結きけつ沈声ちんせい、陰々として、天井黒く壁白し。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四隣しりんの異同を詳しく究めた上でないと、地方的変化の法則を知ることが出来ず、地方と時とがどれだけの影響を与えるかを測量しないでは、言語の成長を説く方法がないのである。
四隣しりん氣味きみわるほど物靜ものしづかで、たゞ車輪しやりんきしおとと、をりふし寂寞じやくばくとした森林しんりんなかから、啄木鳥たくぽくてうがコト/\と、みきたゝおととが際立きわだつてきこゆるのみであつたが、鐵車てつしやすゝすゝんで
そして伊勢に、北畠親房、河内和泉には、四条隆資たかすけと、それぞれの地に、それぞれな宮方の驍将ぎょうしょうがたたかっている。あるいは、四隣しりんの兵を糾合きゅうごうして、次の地盤をつくりつつある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四隣しりん郷党きょうとう一様に、和やかにその一日を送ろうとする。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と牛肉注文の声が四隣しりん寂寞せきばくを破る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
積極的な四隣しりんから、伝来の領土もいつか少しずつかすられ、いまでは先祖の遺産も、熊山の山間地方とここの今木に、半郡にも足りぬものを、やっと保持しているだけのこの土着武士。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)