めく)” の例文
無論一体にきずだらけで処々ところどころ鉛筆の落書のあととどめて、腰張の新聞紙のめくれた蔭から隠した大疵おおきずそっかおを出している。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は、すばらしい僥倖ぎょうこうを掴んだ。一念になって、牢の中の石ころをめくっているうちに、一匹のがまを見つけたのである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(上げ板をめくって見ろ、押入の中の夜具じゃねえか、焦臭きなくさいが、愛吉の奴がふて寝をしていやあがるだろう。)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冷吉は寢飽きたやうに倦怠けたるく蒲團をめくつた。何だか外の冷いやうな中に出て、かうした氣分を忘れ紛らしたい。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
と書いて、手紙の端にアラビヤ護謨ごむで滅多にめくれないやうに切手が貼つてあつた。言ふ迄もなくデヰスやヰルキンスは、切手を取りつ放しにした連中れんぢゆうである。
云いつつしずかに衾をめくると、待構まちかまえたる重太郎は全身の力をめてえいやとね返したので、不意をくらった忠一は衾を掴んだまま仰向けに倒れた。重太郎は洋刃ないふを閃かして矗然すっくった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
引きめくりて
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これが私の小説を書く病付やみつきで又「遊び」の皮切であったが、それも是も縁の無い事ではない。私の身では思想の皮一枚めくれば、下は文心即淫心だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
きょろきょろと、膝の下をめくってみたり、立ってみたり、やっと、その筆が、耳に挟んであるのを見つけて
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市郎は念の為に獣の皮を一枚づつ引きめくって見た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本の小口をめくつてお出でになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
トム公は、歩廊へ出て、隣のカーテンをめくってみた。テーブルの上に、阿片を吸う真鍮しんちゅうの道具が、幾つも、ぴかぴかと光っておいてあるのみで、今夜は、誰もいなかった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ思想にとらわれて活機の分らぬ人のる事だから、おかざりの思想を一枚めくれば、下からいつも此様こん愛想あいその尽きた物が出て来るに不思議はないが、此方こっち此方こっちだ、其様そんな事は少しも見えない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
波越八弥が、死骸にかぶせてある筵の端を少しめくって見せると、お蔦は、肩をすぼめてふるえた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立ちどまって、こっちを見ていた編笠は、笠の前つばを、ヘシ折るようにめくげて
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の顔を掩っている指を、ぐようにめくり離して、そして唇をそっと寄せた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)