いずれ)” の例文
しかしそれは働くための身なりである。いずれも必要から発した品々に過ぎない。誰がこれを定めたのか、いつの時代から始まったのか。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その何人なんぴとの手になり、またいずれの辺より出でたる云々の詮索は、無益の論なりとの説もあらんなれども、鄙見ひけんをもってすれば決して然らず。
読倫理教科書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
未死の幽魂、尋ねんと欲するも、今いずれの処にかある。請う、吾人ごじんをして彼を九原きゅうげんの下より起し、少しく彼にいて語らしめよ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
『尾張名所図会』に言う所の博学多材の学者鷲津幽林はすなわちこの幸八である。わたくしの見た鷲津氏系譜はいずれの時何人なんぴとの作ったものかをつまびらかにしない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しこうして露国またそのきょじょうぜんとす。その危機きき実に一髪いっぱつわざるべからず。し幕府にして戦端せんたんを開かば、その底止ていしするところいずれへんに在るべき。
お政は児をうて彼にさきだち、お露は彼に残されて児を負う。いずれか不幸、いずれか悲惨。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
諸士は偏へに老武者が壮士わかものを励ます為の繰言とのみ思ひて、いずれも遠藤殿の仰せらるる迄もなし、我々も明日の軍に討死して、栄名を後世に伝ふべきにて候ふと答へしかば、喜右衛門尉も悦び
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その主客のいずれの辺にあるか、今日においてこれを揣摩しまするあたわざれども、彼は確かに将軍家定の知遇に感激し、一死を以てこれに酬いんと欲したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
家慈輿中よちゅうヨリコレヲうかがツテ欷歔ききょス。小弟ふところニアリ呱呱ここ乳ヲもとム。余モマタ家慈ニ向ツテしきり阿爺あやまみユルコトいずれノ日ニアルヤヲ問フ。シカモソノ幽囚ニアルヲ知ラザル也。至レバすなわチ老屋一宇。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それ封建世襲の社会において、いわゆる天民の秀傑なる智勇弁力あるもの、いずれの地に向ってその驥足きそくを伸べんとする。「株」を買わんか、養子に行かんか、賄賂わいろによりて身を立てんか。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)