何心なにごゝろ)” の例文
そつともとのやうに書物のあひだに収めて、なほもそのへんの一冊々々を何心なにごゝろもなくあさつてくと、今度は思ひがけない一通の手紙に行当ゆきあたつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だから横町よこてう野蕃漢じやがたら馬鹿ばかにされるのだとひかけてよわいをはづかしさうな顏色かほいろ何心なにごゝろなく美登利みどり見合みあはつまの可愛かわゆさ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おみねは何心なにごゝろなく向うの方へ目をつけている油断をうかゞい、伴藏は腰に差したる胴金造どうかねづくりの脇差を音のせぬようにひっこ抜き、物をも云わず背後うしろから一生懸命力を入れて
なまりおもりかとおもふ心持こゝろもちなにでゞもあるからんと、二三ふつたが附着くツついてそのまゝにはれないから、何心なにごゝろなくをやつてつかむと、なめらかにひやりとた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あたまうへには廣告くわうこく一面いちめんわくめてけてあつた。宗助そうすけ平生へいぜいこれにさへかなかつた。何心なにごゝろなしに一番目ばんめのをんでると、引越ひつこし容易ようい出來できますと移轉會社いてんぐわいしや引札ひきふだであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
嗚呼をこがましけれど雪三せつざう生涯しやうがい企望のぞみはおまへさましん御幸福ごかうふくばかりと、ひさしてことばりつ糸子いとこおもてじつとながめぬ、糸子いとこ何心なにごゝろなく見返みかへして、われ花々はな/″\しきにならんのねがひもなく
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長吉ちやうきちは同じやうなの冬の今年ことしと去年、去年とその前年ぜんねん、それかられと幾年いくねんさかのぼつて何心なにごゝろなく考へて見ると、人は成長するに従つていかに幸福を失つてくものかをあきらかに経験した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まくらちか一脚いつきやくつくゑゑたるは、をりふし硯々すゞり/\び、書物しよもつよむとてあり學校がくかうのまねびをなせば、こゝろにまかせてかみいたづらせよとなり、あにといへるは何心なにごゝろなく積重つみかさねたる反古紙ほごがみりてれば
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)